「タイパ重視」職場の若者が耳を傾ける話し方の秘訣 上司は「成功体験」語ってはいけない

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   職場の若者たちにどう接したらよいか、悩んでいる先輩や上司は多いだろう。

   若い世代の多くが、上の世代と話すことを「学びがある」と考えている一方、「苦痛だ」と感じている者も少なくないことが、研究リポートでわかった。

   彼ら彼女らは、上の世代との会話を待っているのかもしれない。どういうコミュニケーションを取れば、若者と「双方が幸せになれる職場の世代間交流」をできるのか。研究者に話を聞いた。

  • タイパ意識が高い若者を飲み会に誘っても…
    タイパ意識が高い若者を飲み会に誘っても…
  • (図表1)上の世代との会話頻度別、若者の世代交流意識(第一生命経済研究所作成)
    (図表1)上の世代との会話頻度別、若者の世代交流意識(第一生命経済研究所作成)
  • (図表2)「上の世代との会話によって学ぶことがある」の回答結果別、会話意向の比較(第一生命経済研究所作成)
    (図表2)「上の世代との会話によって学ぶことがある」の回答結果別、会話意向の比較(第一生命経済研究所作成)
  • 福澤涼子さん
    福澤涼子さん
  • タイパ意識が高い若者を飲み会に誘っても…
  • (図表1)上の世代との会話頻度別、若者の世代交流意識(第一生命経済研究所作成)
  • (図表2)「上の世代との会話によって学ぶことがある」の回答結果別、会話意向の比較(第一生命経済研究所作成)
  • 福澤涼子さん

いつの時代でも「上との会話」は、楽しくはない

   このリポートは、第一生命経済研究所研究員の福澤涼子さんがまとめた「上の世代との会話は学びか、苦痛か~効果的な世代間交流のあり方とは~」(2023年10月24日付)だ。

   リポートによると、若い世代(18歳~34歳)では、職場の先輩や上司などとの人間関係も含めて、親や祖父母以外の「上の世代」と会話(業務報告を除く)することが「ほとんどない」人が約4割(39.4%)に達した。世代を超えたコミュニケーションが日常的にあまり行われていないことが明らかになった。

   そして、上の世代との会話によって「学ぶことがある」と答える人が半数(52.4%)いる一方、「苦痛だと感じる」人が約4割(37.9%)もいた【図表1】。「学びがある」と考える人と、「学びがない」と考える人の間では、上の世代との会話を望む意向のギャップが大きく、6割(60.3%)対1割(9.7%)の大差がついた【図表2】。

   J-CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた福澤涼子さんに話を聞いた。

――シニア世代の私には、年上の人との会話を「苦痛」と感じる若者がけっこう多いという調査結果にショックを受けました。なぜなのでしょうか。

福澤涼子さん 今回の調査は、時系列で比較した調査ではないため、現代の若者が特に「苦痛」だと感じているとは言い切れません。いま中高年世代の方々も、自分の若い頃を思い出していただければ、上司との交流は楽しいばかりではなく、「自慢話や説教を聞かされて苦痛だ」と感じられていたのではないでしょうか。

ただ以前は、本人が話したいと思っているか否かに関わらず、上の世代との交流の必要性がありました。というのも、少し前まで日本の企業の多くは年功序列型でした。上に気に入られるように頑張らないと出世できない、あるいは給料が上がりませんでした。だから、上司との飲み会には参加する、休日には一緒にゴルフをすることが当たり前でした。

一方で、今の若者は、無理をしてまで上に気に入られたいとは思いません。嫌われれば転職すればいい。また、効率性を重視する「タイパ意識」が、ほかの世代と比較して高いのです。「タイパ」とは、費用対効果を表わす「コスパ」(コストパフォーマンス)の考え方にならい、時間に対する効果「タイムパフォーマンス」を示した言葉です。

短い時間でどれだけ大きな成果、満足を得られるかを重要視する考え方で、若い世代を中心に広がっています。三省堂の「今年の新語2022」の大賞にも選ばれました。

成功体験は「自慢話」と受け取られ、時間のムダに

――先輩や上司と話すことは「タイパ」に合わない、つまり、時間の無駄だということですか。実は、私は後輩のA君に「もっとこうすれば、いい取材ができて、いい記事が書けるのになあ」とアドバイスをしたいのですが、どう話せばいいでしょうか。

福澤さん タイパ志向のある若者は、早く成長したい人が多く、短い時間での学びを大切にします。上の人と一緒に飲みに行ったら2~3時間はかかる。もし、2次会にでも行ったら、5~6時間かかるかもしれない。それに見合う学びや成長があるのか、少しシビアにとらえる傾向がうかがえます。

ただし、私たちの調査では半数以上(52.4%)の若者が「上の世代の人との会話によって学ぶことがある」と答えています。Aさんが、最初から上の人と話しても「学びはない」と考えるタイプなら交流自体を拒まれる可能性もありますが、何かを学べるかもしれないと期待するタイプなら、交流することをポジティブにとらえて、聞く耳を持ってくれる可能性も高いと思います。

――ズバリ、A君にどんな話し方をすれば、アドバイスがビシッと響くでしょうか。

福澤さん 何より、あなたの成功体験を話すより、失敗体験を話すことが大切です。

心理学研究の話になりますが、人間はモチベーションを高めて何かを成し遂げようとする時に、「成功したい、だから頑張る」と前向きの反応を示す「促進的志向性」のタイプと、「失敗したくない、だから頑張る」と後ろ向きの反応を示す「予防的志向性」のタイプの2つに分かれると言います。

本来は本人の志向にあったアドバイスの仕方が望ましいとされていますが、ある研究(注1)では、高齢者との交流についてはどちらのタイプの若者でも、「失敗しないための教え」のほうが、感謝を抱いたという結果になりました。

こうした研究結果からわかるのは、あなたの失敗体験、たとえば、「こんな記事を書いたら、炎上して困っちゃった」とか「全然、ページビュー(PV)を稼げない時期が続いて落ちこんだ」といった経験談を話したほうが、相手の心に響くし、学びになるととらえてもらえる可能性が高いということです。

「キミはスゴイ」より「キミは役に立っている」

――なぜ、若者は上の人と話す時は、「予防的なアドバイス」に感謝するのでしょうか。

福澤さん 若者が上の世代との会話をする際、気を遣って持ち上げたりすることもあると思います。そのため、若者には最初から、「自慢話をして自分自身がいい気持ちになりたいのだろう」というバイアスがかかっているのではないでしょうか。そうした心理もあって、上の世代からの成功体験をもとにしたアドバイスを素直に受け止めきれないのでは。

そこで、あなたが自分の恥をさらしてまで失敗談を語れば、Aさんは「この人は、自己犠牲を払ってまでオレのことを思ってくれている」と、真っ直ぐ心に刺さると思います。

上の人が下の人と話す時に大切なことは、積極的に自分の弱みを見せる「情報開示」なのです。まず、決して偉そうにせずに、相手(Aさん)を貶(おとし)める気はないと暗に伝えること、それが若者から信頼感を得る土台です。

なおかつ最初は、自身の弱みである失敗談を面白おかしく話すなどして、リラックスした雰囲気をつくれれば、相手の警戒心もとけやすくなると思います。そうしてお互いに信頼関係をもってコミュニケーションができるようになれば、今度こそ、ビシッとした、突っ込んだアドバイスでも若者が素直に受け取りやすくなると思いますよ。

――私はもともとお茶らけた人間で、失敗談を面白おかしく話すのが得意なので、何とかA君にアドバイスできそうですね。ほかに大事なポイントはありますか。

福澤さん 日本の若者はほかの国の若者に比べ、自分を肯定する「自尊心」が非常に低いと言われています。内閣府が2018年に行った7か国の若者の意識の国際比較調査によると、自分自身に満足したり、自分に長所があると思ったりする若者の割合は、わずか10%で、7か国の中で最低でした。米国では58%、英国では42%、お隣の韓国でも36%の若者が自分に満足しています。

その代わり、自尊心に関連するもう1つの項目である、自分が社会や周囲に役立っているかどうかを重視する「他者に対する有用感」の意識は、自分への満足感」と比べて他国との間に大きな差はでませんでした。そして、有用感が高いほど、自分への満足感も高くなるのは、日本の特徴でもあります。

米国や英国の若者は、他者に役に立っているかどうかに関係なく「自分はスゴイ」と感じ、「自尊心」が高いのですが、日本の若者は、自分が役に立つという関連で「自尊心」が高くなる特徴があります。

だから、Aさんと話す時は、「君はスゴイよ」というより、「君は会社の役に立っているよ」とか「みんな、君に救われているよ」と声かけすると、Aさんのモチベーションもググッと上がるのではないでしょうか。

また、現在は、若者の意識や価値観が多様化していることを改めて認識して、決めつけや先入観を持たずに接することがとても大切です。

「人、それぞれ」という相槌は「冷たい」

――どういうことでしょうか。

福澤さん たとえば、1990年代初頭までは「定番のライフコース」がありました。学校卒業後に就職、結婚して子どもをもうけ、妻は専業主婦として家庭を守り、夫が稼ぎ頭として出世を目指すというものです。しかし、今の若い世代は1990年以降に生まれ、多様な価値観が当たり前の社会に育っています。

「男性だから出世したいはず」「女性だから子どもがほしいはず」という先入観は禁物です。実は先日、私は女子学生を中心に「女性のキャリアと子育ての両立」をテーマにした研修を行ないました。すると、さまざまな意見の学生がいることがわかりました。

「結婚はしたいけど、子どもはほしくない」とか「結婚はしたくないが、子どもはほしい」とか、中には「子どもを生んだら、キャリアはいらない」とキャリアと子育ての両立を拒否する人もいました。両立を目指す学生が多いかと思っていましたから、その多様さに驚かされました。

――想定とは違っていたわけですね。そういう時はどうするのですか。

福澤さん 私はつい「人、それぞれですね」と言ってしまいました。これは最近、異なる意見の人と出会った時に使われる、相槌を打つ便利な言葉です。しかし、自分でも使いながら、あまり良くない言葉だと反省しています。相手に寄り添っているように見えて、実は無難にやり過ごしているからです。

社会学者の石田光則さん(早稲田大学文学学術院教授)は著書『「人それぞれ」がさみしい―「やさしく・冷たい」人間関係を考える』(筑摩書房)のなかで、「人それぞれ」という言葉には、個々の人の違いを尊重する一方で、考えが異なる者同士が互いに本音で語り合わず、内面に深く踏み込むことを避けようとする面があると、指摘しています。

――では、どういう言葉ならいいのでしょうか。

福澤さん 私なら、「どうしてそう思うのか」とか「ぜひ、教えてほしい」といった問いかけをおススメします。そうすれば、Aさんと本音でぶつかり合い、業務を超えたコミュニケーション理解が深まることでしょう。

飲み会より、まずはランチに誘おう

――なるほど。大いに参考になります。ただし、若者の「タイパ」意識が高いという点が気になります。「どうせ、オッサンなんかと話しても時間の無駄だ」と思われているとしたら、こちらの気もひるみます。

以前、ある若者を飲みに誘おうとしたら、「仕事の話題なら、今ここで話してください」と言われて鼻白んだことがあります。どういう形で誘えばいいでしょうか。

福澤さん 若者にタイパ意識があっても、そこはあまり腹を立てずに「大人の余裕」を見せることが大切ですよ。飲み会より、まずはランチに誘うほうがいいでしょう。夜のお酒と違って、昼の食事は欠かせないものです。その際、Aさんは1対1では身構えるかもしれませんから、同期の若者も一緒に誘うといいかもしれませんね。

心理学に「ジェネラティビティ」(generativity)という言葉があります。「世代継承性」などと訳されます。中高年者が、次世代の若者に対して自分が身につけてきた技術や文化を伝えたいという意識のことです。この意識のもと、次世代に貢献し、感謝されれば、中高年自身も幸せな気持ちになることができます。

自分の人生の終わりが見えてきた頃、この意識があることで、その絶望感を乗り越えていくことができるのです。つまり、下の世代のAさんのために行動することは、自分の幸せにもつながる可能性を秘めています。ぜひ、Aさんとポジティブなコミュニケーションができることを願っています。

(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


福澤涼子(ふくざわ・りょうこ)さんプロフィール

第一生命経済研究所ライフデザイン研究部研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員
2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。

研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。

注1:田渕恵「先行世代の経験を次世代に活かす:高齢者と若齢者の世代間相互作用」心理学評論63巻(2020)1号

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