「AIやネットで答えをすぐに求めるのは、記号接地力を弱くします」
アンケートでは、10代から20代の若者の中で、「弱」を誤った意味で捉えている人はともに20%を超えていた。若者にとりわけ誤用が多いのは、なぜなのか。
深谷氏は、記号接地がうまくいっていない人が「1000円弱」の意味を理解しようとする場合、「弱」「強」という言葉の感触から、自分の感性で「プラスアルファの中で、程度の強弱の違いを表す言葉」のように独自に解釈するのではないかと推察する。
記号接地の力が低い若者がいる理由として、言葉を理解する経験、場面が少ないことをあげる。理解するプロセスで、適切なアドバイスをもらったり適切なリソースから学んだりする機会がないまま、言葉を使うようになる場合があるという。
言語感覚や言語センス、察しの良し悪しの問題もあるとする。学校やテストで勉強する言葉は限られてくるため、言語感覚が磨かれない子どももいる。自分で適切に意味を予測する力が弱いと、ずれた解釈になる。
こうした背景には、インターネットや人工知能(AI)の発達があると指摘する。
「ある程度プロセスを経験しないと自分で予測はできません。結果だけを覚えていくと、言葉や知識の理解や察しが悪くなります。ググって(編注:グーグル検索をして)結果を早く得ようとすれば、当然そのプロセスを踏まないので、予測する力が弱くなると考えられます。AIやネットで答えをすぐに求めるのは、記号接地力を弱くします。若者の多くは結論を急いでおり、分からないものを分からないものとしておくことができていません。間違った情報を掴むこともあります」(深谷氏、以下同)
言葉に対して「どういう意味なのだろう」と思わずに、勝手に解釈した意味で定着するのは言葉を類推する力が弱くなっている証だという。辞書で調べないか、調べたとしても不十分で、そのため予測する能力が上がらないのではないかと推察する。
「わからない言葉を他の言葉を使って予測したり、漢字の読みや部首から予測したりすることで、記号接地がうまくいきます。予測がうまくいく人といかない人の間には、そういう学習プロセスの経験の差があります。インターネット時代では答えがすぐわかるからこそ、手持ちの情報を基に予測する探求的な姿勢が非常に重要です。予測がうまくいけば、記号接地の力が身につきます」
記号接地の力の高め方については、次のように述べる。
「ある程度、予測をしてから答えを見る。それから、人の言っていることをそのまま正しいと思わないことです。あとは、分からないものを分からないものとしてキープしておき、様子を見るのが大事です」