「投票に行こう」だけでは「あまり意味がない」 最年少26歳・髙島芦屋市長が考える「若者の政治参加」

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   「最年少26歳」として有名になった兵庫県芦屋市の髙島崚輔市長は、「若者の政治参加」という点でも注目を集める。ただ、髙島市長は単に投票を呼びかけるだけのキャンペーンでは「あまり意味がない」とみている。若者の政治参画・社会参画で一番大事なのは、「成功体験をどう作るか」だとみるからだ。

   連載最終回となる第4回では、若者と政治の関係や、いわゆる「シルバーデモクラシー」の問題、芦屋市で実現しようとしている持続可能な発展モデルについて聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 芦屋市の髙島崚輔市長。若者の政治参画・社会参画で「一番大事なのは、成功体験をどう作るか」だと話す
    芦屋市の髙島崚輔市長。若者の政治参画・社会参画で「一番大事なのは、成功体験をどう作るか」だと話す
  • 芦屋市の髙島崚輔市長。若者の政治参画・社会参画で「一番大事なのは、成功体験をどう作るか」だと話す

投票には「合理的な判断だと行かないですよね?」

―― 髙島市長は最年少なので、「若者の政治参加」という点でも注目されていると思います。投票率が高い高齢者向けの政策が優先されがちな、いわゆる「シルバーデモクラシー」も問題視されます。若者はもっと投票に行かないといけませんね。

髙島: 「若者が投票に行って声を上げた方がいいか」と聞かれれば「そうですよね」となります。ただ、あえて言うと、「投票に行こう」というキャンペーンはあまり意味がないと思っているんですよ。だって、合理的な判断だと行かないですよね? わざわざ日曜日の昼間に、行ったことがないような集会所にわざわざ行って、なんかよく分からないけど知らない人の名前を書いて帰るわけじゃないですか。私は、若者の政治参画・社会参画において一番大事なのは、成功体験をどう作るかということだと思うんです。例えば、自分が声を上げて何かやってみたことが実際に社会を動かしたとか。そういう経験がないとなかなか興味を持てないと思うんですよ。

―― そういった成功体験は、どうすれば持てると思いますか。

髙島: 今、芦屋市で始めているのは、中高生、特に市立中学生の生徒たちと、どうすれば学校や地域社会をより良くできるかについて話す、ということです。すると、校則の改正案を提案してくれたり、通学路についての提案を持ってきてくれたりと、前向きな未来世代に多く出会うことができました。これからも直接対話する機会をたくさんつくっていきたいです。

―― シルバーデモクラシーについてはいかがですか。

髙島: 26歳で市長に就任したということもあって、ともすれば「若者と高齢者の間の世代間闘争を誘発している!」とみる向きもあると思います。ただ、私の場合、子育て政策、特に教育政策を一番応援してくださっていたのは、実は高齢の方だったのではないかと思っています。芦屋市には「自分たちのことはもちろん、ある程度やってくれたら嬉しいけど、それよりも次の世代、孫世代のためにお金を使ってほしい」と言ってくださる方がすごく多かったんです。これは極めて特殊なことなのかもしれませんが、すごくありがたかったし、嬉しかったです。

―― それは意外ですね...!

髙島: いろいろ話を聞くと、芦屋は昔、教育の質がすごく高くて、越境入学という形で、尼崎や西宮から芦屋の公立学校に通う人もいたようです。そのことをご存知の世代が応援してくださっているのではないかと考えています。

―― それは恵まれた環境ですね。

髙島: 80代の方々で「あの頃は確かにすごかったから、あんなふうにもう1回やってくれるんだったら、頑張ってほしい」と言ってくださる方も多いんです。「シルバーデモクラシー」と言われがちですが、芦屋に関して言うと、きちんと「今、何が大事か」を伝えれば、理解してくださる方は結構多いです。本当に恵まれた環境だと思います。逆に言えば、ここで教育改革ができなかったらどこでもできないと思うので、きちんとやり遂げたいです。

持続可能な発展モデルは「人」と「環境」がキーワード

―― 他の都市に波及するか、試金石になりそうですね。もう少し中長期なお話もうかがいます。過去のインタビュー(Forbes Japan、23年8月)では、日本のプレゼンスを再び向上させる必要性に言及しています。そのためには「10万人程度の都市で持続可能な発展のモデルをつくること」が必要、だと話しています。

髙島: 持続可能な発展ということで言うと、「人」と「環境」の2つの観点があると思っています。前者の「人」は、まさに今日お話ししているような教育の話です。芦屋の場合は、あえて言うと、一生芦屋にずっと居てほしいから教育に力を入れるわけではありません。人間って外を見たいじゃないですか。広い世界を見たいというのは人間の本能のようなものです。工藤さんは福岡から東京の大学に進学されましたし、私も米国の大学に進学しました。「一生芦屋に居とけ」みたいなことは言えませんし、広い世界に飛び立って活躍してもらうことは歓迎です。

芦屋市の場合20代前半で一気に人口が流出していますが、それは自然なことです。その上で、大きくなって子育てしたいなと思ったタイミングで「そういえば芦屋の学校よかったな」とか「あの環境でもう1回自分の子どもを育てたいな」と思ってくださる方がどのくらいいるかが大事で、そこが重要なKPI(重要業績評価指標)だと思っています。その意味で、持続可能な人口構成を考えると、質の高い教育で芦屋に対する思い、ふるさと意識のようなものを醸成させることがまず大事だと思っています。

―― 「環境」についてはいかがですか。

髙島: 芦屋は自然環境が充実しているのに都会に近い点が大きな特徴、売りです。ここをどう守り続けていくか、綺麗な街並みをどう守り続けていくかが大事です。例えば山の方に行けば車で10分で国立公園ですし、海も10分以内。そうかと思えば(JRの)新快速が止まるので大阪まで15分、神戸まで10分です。こんな環境は珍しいので、この地理的な優位性を生かしたまちづくりを続けていきたいです。それに加えて、街路樹、道路がすごく美しい。これは朝早起きして掃除してくださる市民の方々のおかげです。

この「人」と「環境」の観点が芦屋の魅力であり、持続可能なまちづくりに大いに資すると考えています。一見芦屋にしか活かせないように見えるかもしれませんが、「人」と「環境」を大切にする街は、長続きすると思うんです。住み続けたくなりますもんね。

大学では自然エネルギーを学んでいたので、ゆくゆくはエネルギー政策も絡めて、持続可能な街のモデルを作り上げたいと考えています。

「『次、国政行かれますよね?』とは、よく言われるんですよ」

―― なるほど、結構やりたいことが盛りだくさんですね。

髙島: そうなんですよ~。

―― そうなると、(市長としての任期の)4年では終わらない仕事ばかりですね。首長から国政に転じる人も多いですが...?

髙島: 市長という仕事は選ばれないとできない仕事ですが、その上で言うと、私がこの仕事を選んでいるのは、全ての選択肢が目の前にあったとしても、やはり市長が一番面白いと思ったからです。ご指摘のとおり「次、国政行かれますよね?」とは、よく言われるんですよ。ですが、国会議員をやったことがないので国会議員の方に失礼かもしれないのですが、私にとっては市長の仕事が一番面白いと思ってやっています。

―― ぱっと思い出せるだけでも、首長から国会議員に転じた人には、米山隆一衆院議員(立憲、前新潟県知事)、古川康衆院議員(自民、前佐賀県知事)、太田房江参院議員(自民、元大阪府知事)といった皆さんがいます。知事と国会議員、仕事としてどちらの方がやりがいがあるかというと?

髙島: 国会議員をされている方は、おそらく国会議員だからこそできることがあるからやっていらっしゃるのだと思います。ただ、私は今のところは首長、とりわけ市長の仕事に魅力を感じています。市長の仕事に全力を注ぎ、芦屋を世界で一番住み続けたい街にできるよう、これからも精進します。

髙島崚輔さん プロフィール
たかしま・りょうすけ 芦屋市長。1997年生まれ、大阪府箕面市出身。灘中学・高校卒業後、2015年に東京大学に入学し、後に中退。同年9月ハーバード大学に入学。16年にNPO法人「グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ」の理事長に就任し、NPO活動強化のために孫正義育英財団の支援を得て3年間休学した。在学中の19年に芦屋市でインターンを経験した。22年にハーバード大卒(環境工学専攻・環境科学・公共政策副専攻)。23年4月の芦屋市長選に出馬し、史上最年少で初当選。同5月に就任。

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