「26歳最年少」強調されるのは「どう考えてもプラス」 髙島崚輔・芦屋市長が「発信力」を重要視する理由

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   「最年少26歳」として有名になった兵庫県芦屋市の髙島崚輔市長は、この枕詞は「どう考えてもプラスだった」と振り返る。この半年で特に重点的に取り組んだのが教育改革で、「今に対する便益と同時に、未来に対する投資にもなる」と説く。

   連載第3回では、まもなく半年を迎える高島市政の成果や、知名度を生かした情報発信のあり方、今後の政策課題について聞いた。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 「26歳最年少」が強調されるのは「どう考えてもプラス」だという
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26歳が強調されるのは「どう考えてもプラス」

―― まもなく就任から半年です。弊社を含めてメディアは「最年少」を強調しがちですが、どう受け止めていますか。プラスに働いていますか。それとも「最年少」と言われるのは面倒ですか。

髙島: どう考えてもプラスだったと思います。注目いただけるのは、自治体にとってありがたいことだからです。普通なら、単なる人口9万4000人の市に興味ないじゃないですか。わざわざこうやって来てくださることも含めて、取り上げていただけるのは最年少だからだと思います。でも、誰か25歳の人が当選したら、誰もこっちに来なくなりますよね(笑)。ふるさと納税の話もありますし、芦屋市に注目していただけることは、本当にありがたい限りです。

―― 半年やってみていかがですか。当選したときの想像と比べてハードでしたか。それとも、予想どおりの手ごたえですか。

髙島: 「概ね予想通り」ですが、改めて感じたことを2つ挙げるとすると、一つは残念ながら市長1人では何もできないということです。事前に分かっていたことではありますが、庁内の意思決定も議会も、市長の独断でできることは何もない。たとえ市長がやりたいと思って、市役所の職員も「しゃあないか」と思ったとしても、議会が「駄目だ」と言ったら基本的には実現できない制度です。議会への説明も市長一人ではできないからこそ、まずは市役所内にどのように良いチームを作っていくかが極めて重要だというのを改めて感じた半年でした。

市長に就任したのは5月ですが、大きな人事異動は4月に行われています。その意味では、大きな組織をどう作っていくかは、まさにこれからです。現時点では「前の予算で、前の体制で」ということなので、次の年度が大きな勝負になります。

もう一つは、改めて中に入って実感したことですが、市役所のアピール力不足が大きいということです。行政や市役所、何となくすごくマイナスのイメージで捉えられることが多いと思うんですね。「遅い」とか「堅い」とか「やる気がない」とか「保守的」とか...。ですが、中から見ると、みんなめちゃくちゃ頑張っているし、やる気を持って仕事しているし、それこそ「遅い」と言われてもスピードを上げようと努力している部分もあるんです。

ただ、残念ながらそれが伝わっていない部分が多分にある。この発信力がないところをどうカバーするかについては、私がこうやって最年少として注目いただいているタイミングをうまく使いたいと思っています。発信が、今年度の大きなテーマの一つです。

市役所は「やっているのなら、もっとアピールしたらいい」

JR芦屋駅南地区の再開発が課題になっている
JR芦屋駅南地区の再開発が課題になっている

―― 市長のSNS含め、情報発信は大事ですね。

髙島: まさにそうです。市役所の職員の方に「なんで発信しないんですか」と聞いたんですよ。やっているのなら、もっとアピールしたらいいじゃないですか。ところが「市役所というのはある種、やって当然。税金をいただいている立場なので...」と。具体例を挙げると、マイナンバーのひも付けの誤りが全国の自治体で発覚して、芦屋市でもいち早く調査をしました。結果的にミスはないことが分かり、政府が公表した「個別データの点検が必要な自治体」にも含まれませんでした。だったら、「ちゃんと調べて、ミスはありませんでした。良かったです」って言ったらいいじゃないですか。ですが、実際は「いえ、いいです。調べることが仕事なので」。

―― 奥ゆかしいですね。

髙島: ですよね! そういうことをやっているから「仕事しない」と誤解されているのでは?という話をしましたが、それでも「市役所から言うのは...」というので、内容が合っているかを確認してもらった上で自分のSNSで発信しました。その結果、やはり市民からの反応が良かったんですよ。やっぱり安心するじゃないですか。あれだけ報道が過熱していると、「うちはどうなの?」と絶対なるので、そういうところをいかにアピールするか、私も言い続けなければならないし、少しずつ意識改革できないかと思っています。

―― 自分は福岡市出身なのですが、高島宗一郎市長は情報発信が多いですね。

髙島: 福岡に負けないように、と言うわけではないですが、「市役所の人たち頑張ってるね」とか「芦屋の市役所って前向きだね」と思われることの無形の価値の大きさは計り知れないと思います。行政としては、残念ながら市民の方の要望に応えられないことや、耳の痛い話をしなければいけないタイミングも存在するわけです。そういう時に、日頃から頑張っている人たちから「ごめんなさい、ここはこうなんです」と言われることと、何をやっているんだかよく分からない人から「ダメです」と言われるのでは全く違いますよね。そこの「信頼の貯金」をどう積み重ねるかを大事にしたいです。

―― リソースは限られていますからね。例えばですが、ごみ収集の回数が減ったり、水道代が値上がりしたり...、といったお願いをしないといけないタイミングが出てくるかもしれません。

髙島: まさにそうなんです。ごみと水道は今のところ大丈夫そうですが、それ以外も含めて、苦渋の決断をしなければならないタイミングは絶対にあると思っています。いろんな仕組みが、この先40年同じなわけがありませんし。

教育改革は「今に対する便益と同時に、未来に対する投資にもなる」

―― 半年で達成・改善できた、できる見通しが見えてきたことはありますか。

髙島: 一番進んだのは教育です。公立の小学校、中学校の教育をいかに変えていくかが一番大事だと考えています。行政は今だけではなくて未来も見なければいけません。現状の課題解決をしながら、未来に向けての投資をどこまでできるかが、自治体が生き残れるかという観点では一番重要だと思うんです。公立学校の充実は、例えば教育熱心な方が移り住んでくださる...といった今に対する便益と同時に、未来に対する投資にもなります。

芦屋市は、公立小8つ、公立中3つという小さい自治体です。この学校が11校しかないというコンパクトさを活かして、未来の新しい教育を公立学校で実現したいんです。その一環として、8月に「教育大綱」を発表しました。

―― 教育は基本的に教育委員会の担当ですが、市長としてはビジョンを示した、ということですね。

髙島: 「教育大綱」を作るためには、今の子どもたちの状況や考えを踏まえることが一番大事だと思ったので、小学生、中学生、高校生のところをひたすら回り続けました。5月は高校生の子たちと対談し、運動会シーズンの6月には小学校を全部回って、7月は中学校を3つとも回って一緒に給食を食べて...。8月には中高生50人と一緒に自分たちの居場所作りについてワークショップを開いて、私がファシリテーターをやりました。こういった活動を通じて、「今の子どもたちにはこういうのが大事だな」という点が見えてきました。一人ひとりに合った「ちょうどの学び」を実現することを目指して取り組みます。

今後は、この大綱という大きな指針、コンパスに沿って、きちんと予算と人をつけて動かしていく、というのが基本路線です。教育改革を実現するために、東大の公共政策大学院と協定も結びました。教育については一番力を入れたいですし、そこを期待してくださっている市民の方々も多いです。

問題山積の万博との関係は

―― (プラットフォームの)noteやSNSで発信している「芦屋市長就任100日間の活動のご報告」では、今後の政策課題のひとつとして「JR芦屋駅南再開発事業に取り組みます」とあります。再開発ビルを建築する「特定建築者」として応募していた東急不動産が8月に辞退しました。

髙島: 建設費の高騰問題が非常に大きくて...。特に関西では万博があって、人をほとんどそこに取られているという現状があって、「受けたくても受けられない」といった事業者も多いようです。市の未来のことを考えると絶対に進めなければならない事業であることは自明なので、しっかりと進めていきたいです。

―― 今は再公募のプロセスなんですね。

髙島: これから再公募をしよう、という段階です。再公募するにしても、応募してくださる事業者がいないと意味がないので、どういう形であれば応募していただけるかを考えながら、という状況です。

―― 芦屋市は直接のステークホルダーではないかもしれませんが、当初の予定よりも費用がかさんだり、なかなか万博は大変そうですね。

髙島: 万博の可否については私の立場でどうこう言う話ではないと思いつつ、「関西万博」なので芦屋も他人事ではありません。兵庫県は「ひょうごフィールドパビリオン」を展開することにしています。独自のパビリオンを万博会場の中に立てるのではなく、地域に今ある価値を発信しようとする取り組みです。芦屋市関連では、近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトが設計を手掛けた旧山邑家住宅(ヨドコウ迎賓館)が「フィールドパビリオン」になる計画です。

このような、新たにハコモノを立てるという方法以外での参画はありだと思います。芦屋市は法律で定められた唯一の「国際文化住宅都市」です。この魅力を国内外に発信するという点では、無事に開催されれば、良い機会になると思っています。そのためにも、市民も含めて前向きに協働できる環境づくりをお願いしたいですね。

   (インタビュー第4回に続く。10月31日掲載予定です)


髙島崚輔さん プロフィール

たかしま・りょうすけ 芦屋市長。1997年生まれ、大阪府箕面市出身。灘中学・高校卒業後、2015年に東京大学に入学し、後に中退。同年9月ハーバード大学に入学。16年にNPO法人「グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ」の理事長に就任し、NPO活動強化のために孫正義育英財団の支援を得て3年間休学した。在学中の19年に芦屋市でインターンを経験した。22年にハーバード大卒(環境工学専攻・環境科学・公共政策副専攻)。23年4月の芦屋市長選に出馬し、史上最年少で初当選。同5月に就任。

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