J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

議員・役人の経験「むしろなくて良かった」 最年少26歳の髙島崚輔・芦屋市長、就任半年で思う「知らないからこそ」の強み

   2023年4月に行われた統一地方選の後半戦、兵庫県芦屋市では全国史上最年少の26歳で髙島崚輔さんが市長に当選し、全国を驚かせた。

   灘中高を経て、東京大とハーバード大の両方に合格したという異色の経歴も注目された。高校では生徒会活動や競技ディベートなどに打ち込み、こういった経験も今の市長としての業務に生きている。髙島さんは5月1日に市長に就任。この半年を振り返ってもらいながら、今後の展望について全4回にわたって聞いた。初回では、大学卒業直後に市長選出馬を目指した理由を中心に語ってもらった。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

  • 芦屋市の市長室には髙島崚輔市長が揮毫した「自他共栄」の文字。「精力善用」に並ぶ灘高校の校是だ
    芦屋市の市長室には髙島崚輔市長が揮毫した「自他共栄」の文字。「精力善用」に並ぶ灘高校の校是だ
  • 芦屋市の市長室には髙島崚輔市長が揮毫した「自他共栄」の文字。「精力善用」に並ぶ灘高校の校是だ

「先手先手で将来に向けての投資をやらないと、芦屋がどんどん地盤沈下してしまう」

―― 当選したのは統一地方選の後半戦でした。ノーマークだったので驚きました。多くの市長は、自治体職員や民間企業などでキャリアを積んでから出馬するものですが、いきなり市長を目指すのは珍しいですね。

髙島: 元々地方自治体の行政という仕事に興味はありました。高校1年生の時、当時住んでいた大阪の箕面市で、30代の倉田哲郎市長(当時)に直接話を聞いたことがきっかけです。地方自治体の首長は一番市民の方に近く、変革を起こしやすい。社会を変えられる仕事に魅力を感じました。後はどういうプロセスを踏んで市長の仕事に就くのか...という話になります。私も何人かの方に相談したのですが、特によく行政を分かっているおられる方ほど、例えば「最初は役人をやった方がいいんじゃないか」とか「市議会議員からでもいいんじゃないか」とおっしゃいました。

―― それでも、いきなり市長選に挑戦したわけですね。

髙島: 理由は2つあります。一つが、今が芦屋にとって一番大事な時期だと思ったからです。芦屋でも高齢化が進んでいて、高齢化率は30年後には4割を超えると言われるほどです。財政はある程度恵まれている現状を生かして、先手先手で将来に向けての投資をやらないと、芦屋がどんどん地盤沈下してしまう。そういうわけで「今しかない」と思いました。
もう一つは、市長の仕事に役人や議員の経験が本当に必要か、疑問に思ったからです。
結局市長という仕事をどう捉えるか、ということですが、私は市長には2つ仕事があると思うんです。一つ目が、役所の中のいわゆる経営者としての仕事。もう一つが、市の代表、顔としての役割です。市議会議員や公務員をされて...という方は恐らく多分前者の経営者としての仕事には経験が必要だと考えていると思うのですが、経営者という仕事と、従業員・プレーヤーとしての仕事は明確に違うと思うんですよね。例えば営業が得意な人と営業部長ができる人が違う、といったケースはままあります。そう考えると、例えば市議会議員や公務員、秘書の仕事をすることでしか得られない経験で、それがなければ市長ができないような経験って本当にあるのかな?と考えたときに、そんなにないのでは、と思いました。
一方、市の顔としての仕事については、経験があるかどうかは関係ないですよね。

―― 実際に市長の仕事をしてみていかがですか。

髙島: もちろん、役所のしきたりのようなことは知りませんし、過去に市議会議員をされた方や役所で働かれた方の方が知識は多いと思います。一方で、知らないからこそ、あまり常識に染まっていないからこそフラットな目で「これって何でこうなのかな?」とか、「これってちょっとおかしくないかな?」といったことを言えるという点では、むしろ経験がはあまりなくて、議員や公務員としての経験は必須ではなかったと思います。
これとは別に、「市議会議員をやっていた方が市長選に通りやすい」という指摘もありました。知名度の話だと思うのですが、そこについては確かにある種の賭けでした。こうやって市長にならせていただいたことは、ひとえに市民の皆さまに感謝ですね。

「実は芦屋って、めちゃくちゃ有利なポジションに」

芦屋市役所。髙島崚輔さんは2023年4月に市長に当選し、5月に就任した
芦屋市役所。髙島崚輔さんは2023年4月に市長に当選し、5月に就任した

―― 1点目の問題は、時間をかけていたら高齢化が急速に進む中では間に合わない、というニュアンスですよね。

髙島: 実は芦屋って、めちゃくちゃ有利なポジションにいると思うんですよね。10万人も人口がいないような市の名前をある程度の人が知っているというのは、それだけで相当に大きなアドバンテージだと思うんです。普通知りませんよね。

―― 「芦屋出身のお嬢様」といった言い方もありますね。ベタな表現ですが...、総じて「お金持ち」というイメージです。

髙島: イメージだとしても名前を知ってくださっていますよね。例えば、東京都の人口9万4000人ぐらいの市の名前を知ってますか?と言っても、多分ピンとこないと思うんです。だからこそ、やはり知名度というアドバンテージがある時点でものすごく可能性にあふれています。でも、どんどん若い世代が減っていったり、高齢化率が高くなっていったり......、少子化高齢化の問題や、様々な役所の中の問題も考えると、やはりこのタイミングでやらないと後悔するかな、と思ったのが大きいです。

インタビュー第2回に続く。10月29日掲載予定です)


髙島崚輔さん プロフィール
たかしま・りょうすけ 芦屋市長。1997年生まれ、大阪府箕面市出身。灘中学・高校卒業後、2015年に東京大学に入学し、後に中退。同年9月ハーバード大学に入学。16年にNPO法人「グローバルな学びのコミュニティ・留学フェローシップ」の理事長に就任し、NPO活動強化のために孫正義育英財団の支援を得て3年間休学した。在学中の19年に芦屋市でインターンを経験した。22年にハーバード大卒(環境工学専攻・環境科学・公共政策副専攻)。23年4月の芦屋市長選に出馬し、史上最年少で初当選。同5月に就任。