ユニクロ、ジーユーなどを展開するファーストリテイリングが2023年10月、中国ユニクロ従業員の給与を最大で44%引き上げた。ユニクロの給与は他の外資系アパレル企業と比較してもそん色ないが、中国のユニクロで働くアルバイト学生が今年7月に、「掃除までさせられるのに低賃金」「いわゆる日本企業的な意味のない決まりが多すぎる」とSNSで訴え、大きな反響を呼んでいた。
中国ユニクロは過去最高の業績を追い風に待遇を改善し、就職難の中国でより優秀な人材を獲得する狙いがあるようだ。
平均28%、最大44%昇給
今月12日にファストリが発表した2023年8月期連結決算は、売上収益、純利益ともに過去最高だった。特にコロナ禍の長期化で低迷していた「グレーターチャイナ」(中国、香港、台湾)は下期に業績が急回復し、過去最高の業績になった。中国市場は足元で景気後退感が強まっているが、柳井正会長兼社長は中国リスクに関する質問を一蹴し、同市場の店舗数を現在の3倍である3000店舗体制まで増やせると明言した。
決算発表前日の11日には、ユニクロ中国が従業員の給与を大幅に引き上げることを明らかにした。
現地報道によると、対象は正社員だけでなくインターンも含まれ、昇給幅は平均28%、最高で44%になる。まず物価が高い一級都市(北京、上海、広州、深セン)で賃上げを実施し、今後、他地域にも広げる計画という。
実は中国では9月ごろからSNSや求人サイトで、ユニクロの大幅昇給情報が飛び交っていた。
現地ニュースメディア「界面新聞」によると、9月にユニクロ社員を名乗るアカウントがSNSに「北京、上海、広州、深セン地区のインターンの時給が30元(約620円)アップ」「正社員はパートナー(PN)が月給1000元(約2万円)、アドバンス・パートナー(AP)は月給1100元(約2万2000円)、シニア・パートナー(SP)は月給1200元(約2万4000円)アップする」と書き込んだ。人材紹介大手BOSS直聘の上海のユニクロ店舗インターン募集情報では、10月1日からの条件として、時給が30~36元(約600~720円)、最短半年での正社員登用もありその場合はPNが7000元(約14万円)、AP7500元(約15万円)、SPが8000元(約16万円)と記載された。
SNS投稿には賛否両論
今回のユニクロの大幅昇給は中国で大きな話題になっている。というのも今年7月、中国のユニクロ店舗で働く大学生がSNSで投稿した「仕事がきついのに給料が安い」「1週間で辞めた」との訴えが大拡散し、メディアが一斉に報道するなど大反響を呼んだからだ。学生バイトは「後輩たちへの注意喚起」として、以下のように説明した。
・時給16元(約320円)で、仕事量が多い。ユニクロにとって大学生は安い労働者に過ぎない
・出入りするときの挨拶、毎日の日報など、決まり事が多すぎる。店舗業務だけでも疲れるのに、1日の売り上げや売れ筋商品、本日の目標のような日報まで書かなければならない。
・同僚にサンキューカードを書かなければならない。いわゆる日本企業のカルチャー。
・朝班の時は開店前の午前8時から10時に店内の清掃をしなければいけない。エアコンもついていないのに鏡を拭いたり、床のモップ掛けをさせられる。大企業なのに清掃をアウトソースしないなんて意味が分からない。
・食事の時間が一定ではない。時間通りに食事ができるなんて思わない方がいい。胃腸が悪い女性は注意。水を飲みに行くのさえ自由にならない。
・1日中立ち仕事。座れるのは1.5時間の休憩だけ。
・バイトなのに毎日残業させられる(時給は出るが......)。
・唯一の良い点は3割引きで商品を購入できること。
投稿が拡散すると、SNSでは「意味のないルールが多すぎる」「搾取」という同調から、「郷に入れば郷に従え」「学生でこの待遇なら悪くない」「お金を稼ぐのは簡単ではないということ」という批判まで賛否両論渦巻いた。
「時給16元」は決して低くない
ただ、ユニクロの店舗仕事がきついという話は以前からよく聞かれ「ユニクロ=辛者庫」という例えもネット上でよく見かける。辛者庫とは清朝の宮廷ドラマで罪を犯した人が送られる、雑用を一手に引き受ける部署だ。
筆者の知り合いも「大学時代に日本文化を学びたくてユニクロでバイトを始めたが、煩雑すぎて最初の給料をもらってギブアップした」と自らの経験を語った。ある中国人大学生は「先輩が就職して店長になったが、仕事が大変すぎて100キロあった体重が1年で60キロに減った」と本当か冗談か分からない話を教えてくれた。
バイトの時給16元というのは、中国の相場では決して低いわけではない。ファストリは今年3月に日本の社員の給与も一気に引き上げており、今回中国で正社員、非正社員問わず給与を大幅昇給したのは、国内ユニクロ事業に次いで二番目に大きい中国ユニクロ事業の成長を加速するためだろう。中国は空前の就職難で、これまで人材を大量に受け入れて来たIT産業や不動産産業が低迷しており、この機により優秀な人材を獲得する狙いもありそうだ。
【筆者プロフィール】 浦上早苗:経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。新聞記者、中国に国費博士留学、中国での大学教員を経て現職。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。