岸田文雄首相は2023年10月23日、所信表明演説で「経済、経済、経済、私は、何よりも経済に重点を置いていきます」と語った。
さらに、「変革を力強く進める『供給力の強化』と不安定な足下を固め、物価高を乗り越える『国民への還元』。この二つを『車の両輪』として総合経済対策を取りまとめ、実行してまいります」、「なお、還元措置の具体化に向けて、近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会における早急な検討を、指示します」としている。
還元すべきは、成長・円安による政府寄与分すべて
まず、経済と3回連呼したとき、「増税、増税、増税」とのヤジがあったが、経済に着目するのはいい。そのために、供給と需要に働きかけるのもいい。
所信表明演説では、所得税減税は明記されなかったが、その翌日の代表質問において、岸田首相は所得税減税を明言した。還元する税収は過去2年度分であるとも答弁した。さらに、各紙では、所得税減税は1人4万円、税金を払わない非課税世帯で7万円給付と報じられている。
経済対策を検討する際、まず財源を考える。今回の場合、成長による増税の還元という設定だが、所信表明演説では、「成長による税収の増収分の一部」とされ、金額が書かれなかった。
還元すべきは、成長・円安による政府寄与分すべてだ。具体的には、過去2年度分と今年度の一般会計税増収分のほか、過去の経済対策の残余、外為特会など特別会計の増収分だ。筆者の見るところ、これらは50兆円程度だ。
もちろん、現在のGDPギャップは所信表明に書かれているように解消されたとは筆者はみておらず、15兆円程度だ。なので、50兆円は単年度で支出すると過度なインフレになるので多年度で還元すべきだ。
政府の増収をどのように使うかは、国会で議論すべき問題
所得減税4万円、非課税世帯7万円給付案ということは、減税・給付金規模は5兆円程度だ。これでは、筆者の想定するGDPギャップの3分の1程度なので、GDPギャップの解消が出来ず、つまり賃金が物価上昇を上回り好循環になる、絶好の経済ポイントであるNAIRU(インフレを加速しない最低失業率)を実現できない。
もちろん、成長や円安による政府の増収をどのように使うかは、国民に一律にバラまくのではなく少子化対策に特化すべきとか、減税より給付金のほうが手元に届くのが早いとか、人それぞれの意見があってもいい。それこそ、所得税なのか、消費税なのかを含めて国会でしっかり議論すべき問題だ。
しかし、そうした議論以前に全体の規模が足りていない。しかも、所得減税のための税法改正は来年提出で3月に成立後、実施は早くても7月だ。規模が小さく、遅いので、効果を論じるまでもない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。