「お客様は神様です」は危険なスタンス
――フリーコメントには、カスタマーサポート経験者から「対応時間が2時間以上になったら上層部の指示を仰ぐ」という声がありましたが、長すぎないでしょうか。カスハラの境界の基準作りをどうしたらよいと思いますか。
川上さん 職場で基準を設けておくこと自体は必要なことだと思います。ただ、実際に運用すると杓子定規にはいかないことが多々発生するはずです。時間を目安にした場合も、たとえばパソコンが苦手で耳が不自由なお年寄りに操作方法を丁寧に説明していたら、2時間以上経過していたということもあると思います。
逆に、激昂した顧客から罵詈雑言を浴びせられたら、3分でも永遠のように長く感じるものです。「〇時間」という基準が長いか短いかは、運用する中でより適切なラインが調整されていくのだと思います。
同時に、時間の長さ以外の別の基準も含め、より適切な基準を設定していく工夫を重ねていくことは必要でしょう。
――ところで、真っ当なクレームをカスハラ呼ばわりする傾向はいかがなものかと、疑問を投げかける意見もみられました。
川上さん 従業員側がカスハラだと訴えたとしても、実は自分の非を認めたくないばかりに顧客側に責任を押しつけようとしたり、横柄な対応など従業員自身が対応を改めるべきケースだったりすることも中にはあると思います。職場側が従業員と顧客双方の言い分を聞いて、総合的に判断する必要があります。
しかし、従業員側に非があるからといって、暴力行為など顧客側の過度な振る舞いが容認されるものでもありません。
クレームが発生した場合、顧客の主張内容が真っ当であるか否かと、顧客の振る舞いとは切り離して考える必要があります。職場としては、クレーム内容と顧客の振る舞いを一緒くたにせず、顧客のクレーム内容がもっともであれば改めるべきは改め、一方で顧客の振る舞いが行き過ぎたものであれば、毅然と対処するという焦点の切り替えが必要になります。
――フリーコメントで多かったのは、「上司は、部下を守ってほしい」という要望と、「お客様は神様です、という考えはおかしい」という意見でした。
川上さん 「お客様は神様です」という言葉を曲解すると、顧客側と従業員側のどちらも「顧客はどんなに横柄に振る舞ってもよい」「顧客には何があっても逆らえない」といった考え方に陥ってしまいがちです。
顧客を大切に思う姿勢は尊いと思いますが、絶対視して盲目的に服従してしまうのはナンセンスです。中には後者の意味で顧客を神様と見なすよう求める職場がありますが、従業員の心身の安全を損なう危険なスタンスです。
従業員に危害を加えるような相手はそもそも顧客ではない、という毅然とした姿勢を職場が示さなければ、従業員は狼藉者に対して無防備な状態で働かなければならなくなります。その結果、従業員が何らかのダメージを受けることになったとしたら、その責任は安全配慮を怠った職場側にあります。
あらゆるハラスメントは、自分が被害者の場合には敏感で、加害者の場合は鈍感になる可能性があります。自分にそのつもりがなくても、いつの間にか加害者になってしまうかもしれないということを、社会で生活している全ての人は心に留めておく必要があるのではないでしょうか。
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)