「職場側には、従業員の安全を守る義務がある」
J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。
――この調査でショックだったのは、被害者経験がある人がない人より、カスハラ加害者になった経験が8倍もあるという箇所です。カスハラの痛みを知っているはずなのに、なぜなのかと理解に苦しみました。
川上敬太郎さん これは必ずしも、カスハラ被害の経験がある人のほうが、経験がない人よりも加害者になる可能性が高い、ということを示しているとは言い切れないと思います。もちろん、カスハラ被害者はストレスがたまっているため、その分、加害者にもなりやすい可能性についても否定はできません。
しかし、そもそも顧客の振る舞いに対して、それをカスハラだと認識するかどうかには個人差があります。それは、自分自身が顧客になった場合の振る舞いでも同じ。自分に大声を出している自覚がなくても、相手側は大声と受け取ってカスハラだと感じる場合もあれば、その逆もありえます。
その点を踏まえると、カスハラに敏感な人は自分が被害者側であっても加害者側であっても敏感であり、敏感ではない人は、自分が被害者側であっても加害者側であっても敏感ではない可能性もあると思います。
――フリーコメントでは、カスハラの線引きについて悩む声が多く寄せられました。どの時点で警察に通報したらよいかと迷うという声が多かったです。管理職としてどう対応すべきでしょうか。
川上さん カスハラに限らず、あらゆるハラスメントは受け手側がどう感じるかが判断の軸になります。
しかし、顧客のどんな行為をカスハラと感じるかには個人差があるため、たとえば、大声で怒鳴られるケースであっても、「顧客が何dB(デシベル)以上の大きさで声を張り上げたらカスハラ」などと明確に定めるのには限界があります。
そのため、個人差があることを前提に、「大声を出す」とか「脅迫する」といった表現で事例を示したうえで、従業員側が顧客の振る舞いに対して、それらに該当すると感じるかどうかが1つの判断基準になってくるのだと思います。
――従業員の自己判断に委ねられるわけですね。
川上さん 一方で、職場側には従業員の安全に配慮する義務があります。暴力行為でケガでもしようものならカスハラどころか傷害です。言葉であっても心が傷つけられたり、威圧的な態度に恐怖心を覚えたりと、従業員の心身の安全が脅かされる場面に対しては、顧客として対応することをキッパリと拒否し、状況によっては警察に通報するなど、職場が毅然とした態度を示す必要があるはずです。
しかし、職場側が相手を顧客だと見なしている限り、従業員としては仕事として対応しなければならなくなります。果たして、暴行したり、土下座を強要したり、恫喝したりする相手であっても、お金さえ払えばその相手は顧客なのでしょうか?
カスハラの根幹には、そもそもの話として、職場側がどのような相手を顧客と見なすのかという問題が潜んでいると感じます。