「原稿料を支払う側も慎重になる」出版社の事情は
三河さんは、現状の漫画業界は一部の限られたタイトルだけが売れている状況だとし、原稿料の値上げが難しい出版の事情を次のように説明した。
「現在は電子出版で持ち直してきていますが、日本のほとんどの漫画は、紙の媒体を持つ編集部で(漫画家へ依頼され)制作されています。電子を含めて漫画が売れるようになり、昨年は業界的には戦後最高額の売り上げとなりましたが、限られたタイトル(『鬼滅の刃』『進撃の巨人』、最近だと『ブルーロック』『東京リベンジャーズ』など)だけが異様に売り上げを伸ばしている状態です。そのほんの一握りに入らないほとんどの作品においては、売れ行きが回復していません。
出版バブル以前は漫画雑誌自体がそれほど多くなく、全体の売り上げも今よりずっと低かったのですが、新人漫画家が初めて出す単行本の部数が初版で3万部程度でした。現在活躍している漫画家で初版3万部を出せる人は、ベテランも含めて、それほどいないと思います。漫画雑誌も少なかったし、単行本タイトルも少なく、漫画以外のエンタメも少なかったので、ひとつひとつの作品を愛読して応援する読者が多かった。なので、新人漫画家の原稿料が安かったとしても、連載が決まれば、印税で十分な収入を得ることができました。
現在は、ごく一部以外の漫画は『売れていない』状況です。SNSでバズっても話題になることがすなわち売れていることとは言い難く、収入増には直結しません。
爆発的に売れている作品の連載が終了したら、大きな額の収入が失われることになるので、原稿料を支払う側も慎重になると思うのです。メガヒットのほとんどが、集英社、講談社、小学館の大手出版社から発売されています。大手出版社では独立採算制を採択していることが多く、編集部ごと収支の採算をするとなると、売れている作品の連載が終了してしまったら、いきなり赤字になることもままあります。
私が在籍していた女性マンガジャンルは、マーケットが少年誌や青年誌よりもかなり小さく、人気連載が途切れてしまった2~3年を持ち堪えられずに休刊した雑誌も少なくはありませんでした。潤っているように見える漫画業界ですが、紙の雑誌が売れなくなり、幼年誌もなくなり、子ども達が漫画を読まなくなってきています。電子書籍が売上を伸ばしてきているとはいえ、漫画を読む世代の年齢が上がっていけば、漫画を読む人口も少なくなります。
そのように、将来に向けて『先細っていく』感覚が現場にあって、原稿料を上げることに前向きにはなれないのではないでしょうか。(一般的な会社の)給与が全体的に上がらないのと同じ理由だとも思います」