忙しくて買い物に行く時間は取れないけれど、家で調理した食事を食べたい。そんな人たちに利用されているのが「ミールキット」だ。食材とレシピがセットになっていて、あらかじめ食べやすい大きさに切られているなど下処理を済ませた商品も多い。
ひとり暮らしや夫婦・カップルの2人暮らし、子育て中の4人暮らしなど、人数に合わせた材料がパックになっているのも魅力だ。食材のロスが減り、何より自分で献立を考えなくてもいい。栄養のバランスが取れているし、料理の失敗も減るかもしれない。
「ドイツ発世界人気No.1ブランド」を打ち出したが
そんな魅力たっぷりのミールキット市場に参入したピカピカの外資系企業が2023年9月27日、ひっそりと東京地裁の破産手続き開始決定を受けた。ハローフレッシュ・ジャパン合同会社(東京・赤坂)。負債総額は30億3900万円である。
2021年4月、ドイツのミールキットブランド「HelloFresh」の日本法人として設立され、2022年4月よりミールキットの宅配サービスを本格的に開始していた。
世界18か国で展開し、2021年度のグローバル売上高は8000億円を超える「HelloFresh」は2011年11月にベルリンで設立され、2017年にフランクフルト証券取引所に上場している立派な大企業。
サービス開始時には「ドイツ発世界人気No.1ミールキットブランド」「アジア初進出」をうたっており、満を持しての日本展開だったに違いない。
2022年9月には本州・四国に加え、配送エリアを北海道と九州に拡大。その際のリリースには、グローバル展開の強みを生かし「イギリスの定番家庭料理!ローズマリー香るシェパードパイ」「タルタルソースで食べる鶏もも肉のピカタ シンプルなカプレーゼサラダと」といった海外レシピの紹介を添えていた。
2022年12月15日付け日本ネット経済新聞の記事では、CEOのウォン・ジョン氏がインタビューに応じ、「日本では食に対する期待度が高く、既存のサービスがニーズに対応できていないのではないか」と挑戦的なコメントをしている。
しかし、この記事が掲載されて半月後の2022年末には、早くも日本撤退を発表。11月にクリスマスメニューとして「主役は国産牛のランイチステーキ!ベシャメルチーズフォンデュ」の注文を募っていたが、日本の消費者にはミスマッチだったのかもしれない。
「ネットスーパー」「在宅配食」含め群雄割拠に
ミールキット市場について、日本能率協会総合研究所が2020年8月に発表した調査結果では、2021年度の1600億円から2024年度には1900億円規模に拡大すると予想されている(図1)。
MMD研究所が2021年5月に実施した「ミールキットに関する利用実態調査」では、最も利用しているミールキットのサービスとして「Oisix」をあげた人が17.2%と最も多かった。次いで「コープデリ」の11.4%、「おうちCO-OP」の10.8%、「ヨシケイ」が10.3%、「パルシステム」が7.4%となっている(図2)。
驚くのはミールキット市場に参入している企業の多さで、この調査で実名をあげられたサービスだけでも18種類もある。
ハローフレッシュ・ジャパンは、日本市場撤退の理由として「同業他社との競合などから国内では思うようなシェアを獲得することができなかった」と振り返った。確かにこれだけの既存サービスの中で勝ち上がるのは容易ではなさそうだ。
また調査では、ミールキットを利用する理由として「時短になるから」(36.9%)がトップになっており、「新しい料理に挑戦できるから」(20.1%)や「バリエーションが豊富で選ぶのが楽しいから」(13.6%)を大きく上回った。このあたりも「HelloFresh」の読み違いがあった可能性がある。
家庭の食卓を支援するサービスは、ミールキットだけではない。「ネットスーパー」や「生協による個配」「外食チェーン・ファストフードの宅配」「宅配寿司」「宅配ピザ」に加え、高齢者などを対象とした「在宅配食サービス」もある。
矢野経済研究所が2023年9月に発表した調査結果では、2022年度に2兆5000億円を超えた「食品宅配市場規模」はその後も成長を続け、2027年度には2兆9000億円を突破すると予想している(図3)。コロナ禍で市場が急拡大した反動減が心配されたが、需要は高止まりしているようだ。