2023年10月、東京都において電車内で女性のスカートに体液をかけた男が器物損壊の容疑で逮捕された。各メディアが報じた。福井県でも、23年7月に女児の帽子に体液をかけた男が同じ容疑で逮捕されている。
ツイッター(現・X)では、器物損壊容疑にしかならないことに疑問の声が多く上がっている。
人の衣服などに体液をかける行為は、わいせつ目的とされないのか。J-CASTニュースの取材に対し弁護士は、痴漢行為に該当しうるほか、強制わいせつ罪、暴行罪、ストーカー規制等に関する法律違反の可能性があると指摘する。
器物損壊以外の罪には問えないのか?
複数報道によると、東京都の事件は2021年に発生した。男は故意ではなく、ハンカチが間に合わずかかってしまったとの趣旨の供述をしているという。
福井テレビによると、福井県の事件では、児童センターを訪れた男がティッシュやハンカチを所持しておらず、女児の帽子に体液を出し拭き取ったとする。「女児へのわいせつ目的で体液を出したのではない」と主張しているという。
ツイッターには、「明確に女性を標的にしている」「器物損壊ではなく性犯罪でしょう」「これが器物損壊?ありえない」「すごい言い訳してくるな」といったコメントが寄せられている。過去同様の被害に遭っている女性からも、被疑内容を疑問視する声が多く寄せられている。
人の衣服に体液をかける行為は、性犯罪ではなく、器物損壊罪でしか問えないのか。J-CASTニュースの取材に対し10月16日、弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士は、東京都の事例に対しては器物損壊罪の他に、都の迷惑行為防止条例第5条1項違反、いわゆる痴漢行為に該当したり、強制わいせつ罪(刑法176条)、暴行罪(同208条)、ストーカー規制等に関する法律違反になったりしうると指摘する。
犯行が2021年のため、適用の可能性があるのは現在の不同意わいせつ罪ではなく改正前の強制わいせつ罪になるという。
しかし、電車で偶然乗り合わせた乗客に対し、気付かれずに体液をかけているため、条例違反以外の犯罪は成立の可能性はあまり考えられないと話す。
強制わいせつ罪は、暴行など相手の必要な犯罪で、犯行時に今回のように暴行がないようであれば成立しないという。また体液が体に直接かかっていれば暴行罪になりうるが、服にしかかかっておらず、体にかけることを狙った事情もないため暴行罪の成立も難しいと指摘。ストーカー規制等に関する条例違反は、同じ相手に繰り返していたら成立する可能性があるが、今回はそうした事情もなく、成立が難しいと見解を示した。
条例においても、「人の体が服の上からであっても直接触れることに比べると、体液がかかることは悪質性がそこまで高くないという判断で、器物損壊罪のみでの捜査などになることが多いのが実情」だとする。
悪質であれば条例違反の「卑わいな言動」と判断される可能性が高くなると述べる。特定の相手を狙ってわざと体液をかけようとして実際にかけていたり、相手に迷惑をかけることが目的になっていたりすれば、それだけ悪質と考えられるという。
東京都の被疑者は、「内心の悪質性」は高くなかったと主張していると推察。事件から2年近くが経過しているため防犯カメラの映像などの証拠は残っていない可能性が高く、違うと断言できるだけの客観的な証拠を集めきるのも難しいと指摘する。今後、条例違反で捜査が進む可能性は否定はできないが、あまり高くないという。
東京都の事件は、公然わいせつ罪にあたらないのか
福井県の事件については、東京都の場合と同様に、器物損壊罪の他に、福井県の迷惑行為防止条例第3条1項違反、いわゆる痴漢行為についての犯罪が考えられると指摘する。
しかし、犯行時には被疑者一人きりだったため、悪質性はより低いという。外部の人間の自由な立入りが想定されていないなど、「公共の場所」とはいえない可能性も指摘。
器物損壊罪を超えた犯罪の成立は難しいと推察した。
東京都の事例においては、電車内で性器を露出していたとも考えられるが、公然わいせつ罪にはあたらないのだろうか。
正木弁護士は、電車内などの公共の場で、周囲の人から見えるように陰茎を露出すれば公然わいせつ罪が成立することは疑いようがないという。
「ただ本当に陰茎を露出したのかを今から明らかにすることは困難であり立証できないため、公然わいせつ罪の成立を問い難いです」
陰茎を衣服の中に隠したまま体液をかけることは不可能ではなく、事前採取した体液をかけることもできると指摘。確たる証拠なく露出を認めることはできないと説明する。
「故意ではない」「わいせつ目的ではない」言い分なぜ通る?
ツイッターでは、「性犯罪ではないか」との旨の声が多くあがっていたが「故意ではない」「わいせつ目的ではない」という言い分はどれほど考慮されるのだろうか。正木弁護士は次のように述べる。
「故意をもって体液をかけることと、わいせつ目的をもっていたことは、必ずしも直結するものではないので、注意する必要があります」
器物損壊罪は故意が必要な犯罪で、過失の場合には成立しない。逮捕されている現状から、「故意ではない」との言い分について、少なくとも捜査機関と令状審査をした裁判官は額面通り受け取っていないと指摘する。
わいせつ目的でないなら、どのような目的でこの行為を行ったのか説明しているはずだと推察。客観的に明らかな証拠とも見比べ、別の目的があったといえるのであれば、言い訳に聞こえる被疑者・被告人の目的が別にあると認定されるとする。
「そうはいっても、実際に捜査する警察官や検察官も我々と大きく異なる価値観をもっている訳ではないので、わいせつ目的がなかったという『言い訳』を簡単に信じられないことは同じです。殊更自分のことを悪く言えば別ですが、そうでない『言い訳』は、立件される犯罪の罪名にあまり大きな影響をもたないケースが多いです。『言い訳』が別の犯罪に当たらないとも限りません。裁判を通じた犯罪の認定について、安易な『言い訳』は無意味です」