インボイス(適格請求書)制度が2023年10月1日にスタートしてから約3週間。企業の現場では導入が順調に進んでいるだろうか。
帝国データバンクが10月13日に発表した「特別企画:インボイス制度に対する企業の対応状況アンケ―ト」によると、企業の6割以上が順調に対応しつつも、「懸念あり」が9割を超えた。いったい何がトラブルになっているのか。調査担当者に聞いた。
始まる前は順調も今は現場が大混乱
帝国データバンクの調査(2023年10月6日~11日)はインターネットを通じて行われ、1494社が回答した。
まず、自社の対応状況を聞くと、3社に2社にあたる65.1%が「順調に対応できている」と回答し、順調にスタートを切っているかにみえた【図表1】。規模別にみると、「順調に対応できている」企業の割合は「大企業」が71.5%に対し「中小企業」が64.2%と、中小企業の遅れが目立った。
一方、制度導入にともなう「懸念事項」について聞くと、「懸念事項あり」と答えた企業は91.0%と9割超にのぼった。企業からは、「作業時間が大幅に増加し、残業が増えてスタッフが疲弊している」(飲食料品小売)、「仕入先などのインボイスの確認、免税事業者への対応でこれからが大変。業務量は増加する」(金融)と、特に事務負担の増大に戸惑う声が多かった【図表2】。
順調なスタートを切ったかに見えたインボイス制度だが、実際に実務が始まる段階になると、あちこちでトラブルが発生し、多くの企業で不安を抱える実態が明らかになったかたちだ。
J-CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した帝国データバンク情報統括部の伊藤由紀さんに話を聞いた。
――企業の約65%が順調に対応しているが、「懸念あり」が9割超という調査、どうみますか。
伊藤由紀さん まず、「企業の65%が順調に対応している」という点ですが、事前の予想ではもっと混乱してバタバタするだろう思っていたので、想定していたより多くの企業がしっかり準備してきたなという印象を受けました。
しかし、ポイントは9割超の企業がこれから始まる事態に「懸念」を示しているという箇所にあります。実は、この調査報告がネットニュースで配信されたとき、多くのユーザーから「見出しの『65%が順調に対応』はおかしいだろう。現場は大混乱だぞ。9割以上が不安を抱いていることを、もっと強調すべきだ」という書き込みを頂戴しました。
金融機関の振込手数料、どちらが払うかで綱引き
――それはどういうことですか。
伊藤さん インボイスがスタートした10月から、各企業が想定していなかった事態が多く発生しています。たとえば、機械製造の経営者は「社内周知に力を入れてきたが、費用の都合によりシステムで対応できない面があり不安が残る。そのうえ、大手の取引先の対応がギリギリまでわからないところもあり、今後、トラブルが起きないか、とにかく不安が多い」と嘆いています。
また、取引先から「これまでの慣習どおり、そちらで振込手数料を負担してくれ」などと頼まれて、困っている企業が多いようです。金融機関の振込手数料は代金を支払う側(買い手側)が負担するのが基本です。ところが、買い手側のほうが力関係が強い立場の場合などは、これまでの慣習で売り手側が負担してきたケースが多くあります。
インボイス制度になってからは金融機関が厳格になりましたから、売り手側からの振込手数料負担を認めないところが増えました。そのため、「仕入先からは振込手数料を支払い者負担としてほしいと依頼が殺到している。しかし、販売先からは従来通り振込手数料を売り手負担としてほしいと依頼されている」と、両方から振込手数料を負担してくれと頼まれ、板挟みに悩む経営者が出てきました。
――それは、大変な負担になりますね。ところで公正取引委員会が、インボイス制度で大きな影響を受ける免税事業者に対して、課税事業所が一方的に取引価格の引き下げや取引中止をした場合、独占禁止法違反の恐れがあると注意を促していますね。免税事業者に関するトラブルはないのですか。
伊藤さん それはあります。ただ、グレーゾーンの世界なので、どこまでが独占禁止法違反になるか峻別するのは難しいですが、「免税事業者の仕入先の中には、このタイミングで廃業を決意したところもある」という意見も寄せられました。
免税事業者の場合、発注元が消費税相当額を負担しなければならないので、仕事が来なくなるとフリーランスの団体がインボイス制度に反対していますが、企業間でもトラブルがあるようです。
何よりも、いちばん多いトラブルは、制度が複雑でわかりにくいことです。実は、私もこの調査報告を執筆するため、インボイス制度を色々と勉強しましたが、Aのケースはこうだ、Bのケースではこうだ、Cのケースでは......と覚えるのに苦労しました。中小企業の経営者が1人で経営から経理までこなしているケースは大変だと思います。
――3か月後の2024年1月からは、いよいよ改正電子帳簿保存法が2年間の猶予を経て、全事業者に適用されますね。領収書などの書類や帳簿類は紙での保存が禁止になり、すべて電子データで保存しなければならなくなるという......。
伊藤さん インボイスへの対応の混乱が続くうえに、ますます事務の負担が重くなることが予想されます。改正電子帳簿保存法、多くの会計ソフトでは対応済みだそうですが、私もこれから勉強しなくては。
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)