金融機関の振込手数料、どちらが払うかで綱引き
――それはどういうことですか。
伊藤さん インボイスがスタートした10月から、各企業が想定していなかった事態が多く発生しています。たとえば、機械製造の経営者は「社内周知に力を入れてきたが、費用の都合によりシステムで対応できない面があり不安が残る。そのうえ、大手の取引先の対応がギリギリまでわからないところもあり、今後、トラブルが起きないか、とにかく不安が多い」と嘆いています。
また、取引先から「これまでの慣習どおり、そちらで振込手数料を負担してくれ」などと頼まれて、困っている企業が多いようです。金融機関の振込手数料は代金を支払う側(買い手側)が負担するのが基本です。ところが、買い手側のほうが力関係が強い立場の場合などは、これまでの慣習で売り手側が負担してきたケースが多くあります。
インボイス制度になってからは金融機関が厳格になりましたから、売り手側からの振込手数料負担を認めないところが増えました。そのため、「仕入先からは振込手数料を支払い者負担としてほしいと依頼が殺到している。しかし、販売先からは従来通り振込手数料を売り手負担としてほしいと依頼されている」と、両方から振込手数料を負担してくれと頼まれ、板挟みに悩む経営者が出てきました。
――それは、大変な負担になりますね。ところで公正取引委員会が、インボイス制度で大きな影響を受ける免税事業者に対して、課税事業所が一方的に取引価格の引き下げや取引中止をした場合、独占禁止法違反の恐れがあると注意を促していますね。免税事業者に関するトラブルはないのですか。
伊藤さん それはあります。ただ、グレーゾーンの世界なので、どこまでが独占禁止法違反になるか峻別するのは難しいですが、「免税事業者の仕入先の中には、このタイミングで廃業を決意したところもある」という意見も寄せられました。
免税事業者の場合、発注元が消費税相当額を負担しなければならないので、仕事が来なくなるとフリーランスの団体がインボイス制度に反対していますが、企業間でもトラブルがあるようです。
何よりも、いちばん多いトラブルは、制度が複雑でわかりにくいことです。実は、私もこの調査報告を執筆するため、インボイス制度を色々と勉強しましたが、Aのケースはこうだ、Bのケースではこうだ、Cのケースでは......と覚えるのに苦労しました。中小企業の経営者が1人で経営から経理までこなしているケースは大変だと思います。
――3か月後の2024年1月からは、いよいよ改正電子帳簿保存法が2年間の猶予を経て、全事業者に適用されますね。領収書などの書類や帳簿類は紙での保存が禁止になり、すべて電子データで保存しなければならなくなるという......。
伊藤さん インボイスへの対応の混乱が続くうえに、ますます事務の負担が重くなることが予想されます。改正電子帳簿保存法、多くの会計ソフトでは対応済みだそうですが、私もこれから勉強しなくては。
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)