「旧ジャニーズ事務所、私ならこう改革をアドバイスする」をテーマに、J-CASTニュースBiz編集部は、日本能率協会総合研究所・前島裕美主任研究員に話を聞いた。今回がその2回目となる。
前編で、前島さんは旧ジャニーズ事務所の立て直しについて、「過去の不祥事企業の再生ケースが参考になります」と語り、複数企業の例を示した。では、旧ジャニーズ事務所の対応はどうか。後編は、そこからスタートする。
会見でNGリストを作ったことが致命的
――不祥事をバネにブレイクスルーしている会社が結構あるのですね。その点、旧ジャニーズ事務所の今回の大不祥事への対応をどうみますか。第2の躍進の道に進みそうですか。
前島裕美さん ブレイクスルーどころか、炎上の火消しに必死といった印象です。残念だったのは2回目の記者会見です。NGリストを作ったことが致命的です。とにかくメディアの批判をやり過ごそうという、後ろ向きのことしか考えていないことが明らかになりました。
すべての質問に真正面から答えるという潔さ、気構えが全く伝わってきません。「批判的な質問をやり過ごす」というスタンスではなく、「批判的な質問が出ないくらい、いかに真摯に誠実な会社に生まれ変わるか」という今後の方針が分かるような記者会見をみたかったです。
――前島さんはいつも、会社のコンプライアンスを調べる第一歩として、ウェブサイトに書かれている会社の理念に注目していますね。
前島さん 新会社「スマイルアップ」のサイトには「笑顔と感動の輪を、世界に」という理念が掲げられていますが、そのために何をやるかという方針が全く伝わってきません。挙げ句は、「性被害を受けていない人が被害者を装っている。メディアはしっかり検証して欲しい」と要求するありさまです。
最初の記者会見の時に東山紀之氏が明言した「すべての被害者に誠実に対応する」という約束はどうなったのでしょうか。「お金をゆすりに来る人がいる」といったチマチマした愚痴を国民は聞きたいわけではありません。国連人権理事会をはじめ、世界は旧ジャニーズ事務所がいかに「笑顔と感動」を世界に広げられるか、しっかり見ています。日本人として恥ずかしいことではないでしょうか。
私は個人的には、エンタメ業界の「闇」は旧ジャニーズ事務所だけではないと考えています。だから、旧ジャニーズ事務所には大ブレイクスルーをしてもらい、日本のエンタメ界、芸能界を牽引して大改革する存在になってほしいと願っています。
タレントたちは世界の共通言語
――ところで、経済同友会の新浪剛史代表幹事が、「ジャニーズ事務所と取引することは、国際的な基準からみると非常な非難を浴びる」と、企業が同社のタレントを広告などに起用することを批判しました。
前島さん 全くその通りです。いくらタレントが素晴らしくても、犯罪行為を行ってきた会社と契約することは、話が別で、決して許されることではありません。大阪・関西万国博覧会のPRに、いまだにジャニーズのタレントを使っていることは、国際的にも問題かと思います。
ただ、ジャニーズのタレントが世界的にも輝いた存在であることは確かです。私の香港の友人が来日すると、一緒にカラオケを楽しみますが、彼らが歌うのはSMAPです。いわば、元ジャニーズタレントは世界の共通言語でもあるのです。ジャニー喜多川氏は、少なくても才能を発掘して、世界で通用するレベルに育てることには長けていたのでしょう。
今、日本では「工業」がダメになっています。かつては自動車が世界を席巻していましたが、現在、世界に通用して日本の人気が高まっているのはエンタメ、アニメ、漫画の分野。旧ジャニーズ事務所のエンタメは、ジャニー喜多川氏らの行状は別にとして「日本の宝」と言えます。経済界トップやメディアは、ただ叩くだけでいいのでしょうか。
「日本の恥」から「日本の宝」に
――どういうことでしょうか。
前島さん 前編で「白い恋人」の石屋製菓の再建ケースを紹介しましたが、当時、雪印グループの食中毒事件、ミートホープの牛肉偽装など、北海道の食品メーカーでは不祥事が続き、北海道の食の地位がどん底状態でした。
「北海道の宝」である「白い恋人」まで潰してなるものかと、北海道の経済界が団結して北洋銀行の島田俊平氏を石屋製菓の社長に送り込み、その後の再建に当たっても全面協力したのです。
真偽のほどはわかりませんが、報道によると、旧ジャニーズ事務所では何人か経営の専門家に打診しながら断られたため、経営者としての経験が乏しい東山紀之氏が新社長に就いたと聞いております。旧ジャニーズ事務所が国連人権理事会から糾弾されるほどの「日本の恥」といえる存在であるにもかかわらずです。
しかし、10月18日付朝日新聞によると、毎年推計1000億円を超える売上高を誇るエンタメ業界のトップクラスに君臨する会社でもあります。ぜひ、「日本の恥」から日本をよくする「日本の宝」に大変貌してもらい、日本のエンタメ業界をけん引する存在になってほしいものです。
そのためには、「白い恋人」を立ち直らせた北海道経済界のように、経済同友会や経団連が本腰を入れてバックアップして、優れた改革手腕を持つ財界人をジャニーズの経営陣に送り込んでいただきたいと願っています。
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
前島裕美さん
(株式会社)日本能率協会総合研究所組織・人材戦略研究部主任研究員、経営倫理士 お茶の水女子大学大学院修了、2002年同研究所入社。調査研究・コンサルタントとして、約20年にわたり多くの企業のコンプライアンス対策、ダイバーシティーマネジメント、経営改革などを支援。