「夜勤は拘束21時間が通常です」 精神疾患で退職、県提訴の元児相職員が明かす「過酷な働き方」とその原因

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   千葉県内の児童相談所の元職員である飯島章太さんが、県に対し未払賃金や慰謝料の支払いを求めた裁判の第6回期日が2023年10月18日に千葉地裁で行われた。飯島さんは在職時に精神疾患を発症し退職を余儀なくされたとしているが、その原因は長時間労働をはじめとした過酷な労働環境だ。なぜ児童相談所、とりわけ飯島さんが働いていた一時保護所の労働環境は過酷なのか。J-CASTニュースは飯島さんに見解を聞いた。

  • 千葉地裁
    千葉地裁
  • 飯島章太さん(ご本人提供)
    飯島章太さん(ご本人提供)
  • 2023年の採用試験実施状況(千葉県公式サイトより、編集部加工)
    2023年の採用試験実施状況(千葉県公式サイトより、編集部加工)
  • 千葉地裁
  • 飯島章太さん(ご本人提供)
  • 2023年の採用試験実施状況(千葉県公式サイトより、編集部加工)

一時保護所の労働状況について、飯島さんの見解は

   千葉県の児童相談所の職員の労働状況については、6月28日の千葉県議会でも「現場から寄せられる人材不足の声は極めて深刻な状況」として議題の中に上がった。議会では2020年の「精神疾患により1か月以上の長期療養を取得した心理、児童指導員及び児童福祉司の合計の平均は約9.3%ということで、県職員全体の3倍、全国平均の5.5倍」とした上で2022年度の数について質問され、2022年4月1日時点では7.3%になると回答された。

   飯島さんは自身が経験した児童相談所の一時保護所での勤務について次のように説明した。

「通常の日勤の場合休憩時間なしで、9時間通して労働します。そこに残業が加わり、残業が2~3時間だとすると、12時間ほどは休憩無しで働き続けることになります。

また夜間勤務が月4~6回ほどあり、その場合昼12時半から出勤で、翌朝9時半が定時ですので、拘束時間は21時間が通常です。労働時間としては3日分ほどありますが、千葉県はこの間に4時間半の仮眠を設けて、それを休憩扱いにしています。その仮眠は子ども達が寝ている居室の中で寝るか、もしくは前の廊下で布団を敷いて寝るように指示されており、子ども達がトイレに起きた際などは、自然と職員も起きて気付くくらいの浅い仮眠状態です。子ども達に何かが起きたり、緊急一時保護がある場合などは、すぐに起きて対応しなくてはいけません。この状態は、労働法的には『休憩』の定義に当てはまらないのではないかと私たちは主張しているところです」

   このような働き方が常態化している原因の一つとして、飯島さんは人員不足を挙げた。

「(上記の働き方が常態化している理由として)急速に増える虐待通告件数に児童相談所の人員や研修や労働環境の整備が追いついていないためだと思います。

特に児童相談所の人員問題は大きいです。虐待通告が年々伸びていく一方で、児童相談所の職員の増加は全くその速度に追いついていません。また国としては児童福祉司や児童心理司を増やしたいという方針は出していますが、一時保護所については明言されておりません。とはいえ、一時保護所の場合、2024年度施行で一時保護所の運営基準が策定され、多少人員配置が増えるようです。これまでは戦後からずっと児童養護施設の人員配置基準の準用でした。

千葉県の場合、確かに採用を増やしているところですが、その多くが休職・退職するなどしていることも事実です。またその状況がわかってきているためか、2023年度の千葉県の採用情報を見ると、定員割れを起こしていることがわかり、今年も採用予定50人のところ、23人の最終合格者しかおりませんでした。

児童相談所希望の人は、新設の労働条件も整い、待遇も良い児童相談所に流れる傾向にあり、採用倍率が高い自治体とそうではない自治体に格差が出ています。こうした人員不足の傾向が全国的に起こっており、それが顕著なのが千葉県なのではないかと思っています」

県は改善を進めるも「仕組みとして難しい部分もあるのでは」

   千葉県はJ-CASTニュースの取材に対し、2022年の児童相談所職員の退職者は入社5年以内の人が半数近くだといい、採用活動や採用後のギャップ解消のため、人材育成に力を入れる方針で、専門部署「児童家庭課人材育成確保対策室」を新設したとした。また、26年に児童相談所を2か所新設するほか、既存の児童相談所の建て替えも予定しており、労働環境の改善に向けて動いているところだという。

   県のこれらの改善策に対し、飯島さんは次のように述べた。

「県の動きとしてはもちろん歓迎しています。ですが、逆にこれまで人材育成の専門部門がなかったことは驚きです(確かに私たちのときにも、一時保護所向けの研修はありませんでした)。

また児童相談所の新設は重要ですが、人員確保をどうするのだろうというのは、現場の人たちはみな口を揃えて話しています。柏市や船橋市の児相もでき、派遣するなどの協力をするとはいいますが、そもそも県の児相すら人員不足なのに可能なのかというのは疑問です。

私としては、まず県の児童相談所の労働環境については、少なくとも労働基準法や地方公務員法の最低限のルールを守らせるべきかと思います。まず話はそこからかと思います。そうでなくては人が入ってきても、やめたり、休んだり、もしくは悪い噂が広がって人が集まらなくなります。優先順位としては、労働環境の整備が優先かと」

   その上で、すぐに動けない行政の仕組みにも理解を示した。

「変わろうとはしているんだろうなという印象はあります。(児相以外の)他の取り組みですけど、児童養護施設を退所した子どもたちの奨学金制度を作るなど、子どもに関する取り組みは今進みつつあると思います。ただ、職員の配置基準に関しては、多分行政機関としてすぐに動くのが難しいのではないでしょうか。それまでの慣例とか、システム的に動かす仕組みがないとか、誰かの一存ですごく変わる仕組みではないので、きっかけがないと変わるのは難しいんだろうなとはすごく思っています。今どうしても、事業としては削減削減で、予算を抑える方向ですから。仕組みの問題であって、特定の誰かが悪いというわけではないだろうとは思っていますね」
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