愛煙家にとっての憩いの場が、また1つ世の中から消える。JR東海は2023年10月17日、東海道新幹線の車内(3・10・15号車)に設置している全ての「喫煙ルーム」を2024年春に廃止すると発表した。
かつては駅のホーム上での喫煙は禁じられておらず、また、新幹線や特急の座席には灰皿が設置されていたことを考えると、隔世の感といったところか。近年、鉄道でどのような禁煙措置が進められてきたか、振り返った。
2003年「健康増進法」で禁煙加速
「東洋経済オンライン」2019年5月22日付記事「来春実現、東海道新幹線『全席禁煙』までの変遷」に、東海道新幹線について以下の記述がある。
「『列車編成のご案内』に禁煙に関する記述が初めて登場したのは1977年3月号だ。こだま号の編成表の下に『※こだま号の16号車は禁煙です』という注意書きが記されたのが最初だった(16号車は自由席)」
それまでは、基本的に車内で当たり前にタバコが吸えたようだ。
時代は下って1994年。2月1日付の日本経済新聞朝刊に「新幹線待つのも切ない愛煙家――東海道・山陽、全駅原則禁煙3月スタート」との見出しで、東海道・山陽新幹線の全駅で、翌3月中に「終日分煙」になると報じられていた。
禁煙措置の私鉄への広がりも確認できた。1994年4月1日付の朝日新聞朝刊と、毎日新聞大阪版夕刊において、阪急電鉄が同月25日から全駅終日禁煙を実施するとある。ただ、同時に各駅に1、2か所の喫煙コーナーを設けるとも報じられており、実際には分煙措置だったことが分かる。また、近畿圏の鉄道で全駅の終日禁煙について、大阪市営地下鉄、JR西日本に次いで3社目としている。
その後も禁煙・分煙を報じる記事が続いたが、大きな動きがあったのは2003年4月だ。22日には毎日新聞朝刊に、関東の大手私鉄8社として東武鉄道、西武鉄道、京成電鉄(新京成線、北総・公団線を含む)、京王電鉄、小田急電鉄、東京急行電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道の名前を挙げつつ、8社の全駅で終日禁煙が翌5月1日から始まるとの記事が載った。同日から施行された「健康増進法」を挙げつつ、同法に受動喫煙防止の努力義務が盛り込まれていることを受けての措置だと説明している。
そして2020年2月1日には、近畿日本鉄道が特急列車の喫煙席を全廃した。前々日の毎日新聞大阪版夕刊では、「喫煙車:さらば愛煙特急 近鉄、来月から座席全廃 大手私鉄ゼロに」との見出しで、「大手私鉄16社から喫煙車が姿を消すことになる」と報じられた。
喫煙者の嘆き「苦労することは、度々」
愛煙家の肩身が年々狭くなることに対し、喫煙者はどのように思っているか。J-CASTニュースBiz編集部では2人に取材した。広がっていく鉄道の禁煙に「賛成・反対」か、愛煙家として苦労や不便を感じるか、感じる場合はどのような点か、を聞いた。
20代の男性Aさんは禁煙措置の拡大に「反対」だ。2024年に予定されている東海道新幹線車内の喫煙ルーム廃止について、「驚きました」と言う。
「非喫煙者への配慮として喫煙ルームを設けたと思うのですが、それすらも撤去するのは過剰な制限だと思いました」
と話した。
「喫煙所がないことで苦労することは、度々あります」とAさん。規模が大きな駅では、まず案内板探しに時間を要し、喫煙所が離れている場合はタバコを吸うこと自体を諦めることもあると明かす。さらに禁煙が推進されれば、より苦労が増えるだろうと考えている。
30代男性Bさんは、禁煙措置の拡大に「部分的に反対」。東海道新幹線車内の喫煙ルーム廃止については、例えば蒸気式タバコや水蒸気を吸う喫煙具など、「健康被害が確定していない」と本人が主張するものの喫煙スタンドを残すといった「柔軟な分煙の対応をしていただけなかったことは残念」という。
電車や新幹線に乗る1、2時間程度ならタバコは我慢できるが、3時間以上は「自信がない」とこぼした。
「羽田空港や関西国際空港では喫煙所が各所に設置されているが、鉄道は在来線、新幹線などのホーム周辺には喫煙所がない」
Bさんは、こうした喫煙者への対応に違いがある点を指摘した。
(J-CASTニュースBiz編集部 坂下朋永)