海水温が影響?スルメイカ、カツオ記録的不漁 ブリは豊漁...でも素直に喜べないワケ

   2023年の夏は全国的に猛暑が続いたが、それは水の中の魚たちにも影響を与えたのだろうか――。調べてみると、不漁と豊漁、どちらの話題も聞こえてくる。

   たとえば、石川県沿岸ではスルメイカの水揚げ量が過去10年で最低。高知県のソウダガツオの幼魚の「新子」の漁獲量が前年同月比の7割~8割減、と不漁のようだ。しかし一方で、長崎県のクエや、富山県ではマイワシ、北海道ではブリなどは豊漁だという。

   それはいったい、なぜか? J-CASTニュースBiz編集部は各地を取材し、現状を追った。

  • 不漁や豊漁など海の状況が変わってきている(写真はイメージです)
    不漁や豊漁など海の状況が変わってきている(写真はイメージです)
  • 図1「出展:水産庁の令和4年度 水産白書」
    図1「出展:水産庁の令和4年度 水産白書」
  • 不漁や豊漁など海の状況が変わってきている(写真はイメージです)
  • 図1「出展:水産庁の令和4年度 水産白書」

イカの産卵の適正水温を超えた?

   たとえば、9月段階で、水揚げ量(漁港に水揚げされた時点での重量)が例年の5割程度まで落ち込んだのが、高知県のソウダガツオの幼魚の「新子」だ。

   高知県では例年、新鮮な「新子」は旬の魚だが、高知県須崎市などでは、漁獲量(漁によって獲れる水産物の分量)が前年同月比の7割~8割に減少しているという。さらに、市場では1匹1000円以上の高値を付け、消費者には手が届きにくいになっているそうだ。

   理由を漁業関係者に聞くと、「高知県にやってくるマルソウダ(ソウダカツオ)の本県沿岸への来遊量の減少が考えられる。本種の分布の中心は亜熱帯から熱帯海域にあり、本県への来遊が漁獲量を左右することが推測される。来遊量が減少した一因としては、2017年から始まった黒潮大蛇行による海況の変化が指摘されている」との回答を得た。

   なお、新子が獲れなくなっていることについては、「今年は新子の漁場への新規加入量がもともと少なく、親魚とは無関係に新子が不漁に陥った可能性もあり、原因は特定できない」としている。

   石川県のスルメイカも不漁に悩まされている。今年(2023年)5月~7月の操業期間の水揚げ量は過去5年間で最低の200トン程度となった。

   その原因について、石川県水産総合センターはJ-CASTニュースBiz編集部の取材に対し、近年のスルメイカの水揚げが右肩下がりにあることにもふれながら、「石川県では秋生まれのイカを漁獲しているが、今年の猛暑で海域の水温が上昇し、イカの産卵の適正水温を超えてしまっているようだ」と説明した。

   そこで今後は、現状把握に努めるとともに、調査船による漁場の調査と、漁師の誘導を行い、不漁への対応を行っていくのだという。

クエの漁獲量増の理由は

   一方で、豊漁となっている魚もいる。

   たとえば、2011年頃から漁獲量が増えて、豊漁だと言われているのが富山県のマイワシだ。

   富山県の漁業関係者によると、富山県沿岸部では、2011年頃から右肩上がりに漁獲量が増え始め、2017年度には総漁獲量60トンと一時落ちたものの、2018年度には総漁獲量1万1500トンにまで上昇している。関係者は「こんなに漁獲量の変動が大きい魚も珍しい」と驚いたという。なお、ここ数年は総漁獲量4000~5000トン程度で安定している。

   富山県の漁業関係者は、「市場で仲買人が買っていき、県外で加工品などに使われているようです。また、氷見地方などではマイワシを米ぬかに漬けて保存した伝統食の『こんかづけ』などをつくって郷土料理として販売しているようだ」と話している。

   長崎県では2016年頃から、高級魚のクエの漁獲量が増加しているという。最盛期で250トン程度、2023年も平年から倍増して200トンの水揚げがあるという。長崎県の漁業関係者は、「海中のクエが増えたこともあるが、クエを狙っている漁業者が増えたことが漁獲量の増えた一因。単価が高いため、漁師の期待も高いのだろう」と説明している。

   ここ数年、北海道で水揚げ量が多いのはブリだ。2000年頃からブリの水揚げが増え始め、2013年には1万トンの大台に乗り、2022年は1万8400トンの水揚げがあった。サケ、サンマ、イカの不漁の続いているのとは対照的だという。

   その理由について北海道の漁業関係者は、「一つには夏から秋にかけて適水温帯が北海道沿岸域まで広がり、南方系のブリの泳いでくる範囲が北に伸びている可能性がある」と話しており、海水温の上昇も関係があるとみる。

   しかし、ブリがたくさん獲れても、漁業者の顔は暗い。北海道でのブリの漁獲量が10年で30倍になっても、ブリ一匹の値段がサケに比べて安いことがあるのだという。そのため、ブリの道内消費を増やすために、北海道や函館市はブリ消費のキャンペーンを行っている。

   なお、海水面温度の上昇について、水産庁の発行している「令和4年度 水産白書」によると、1960年の海水面温度の平年差が「マイナス0.5度」程度であったのに対し、2020年には温度の平年差が「プラス0.5度」まで上昇している。(図1)

   水産白書によると、海水温の上昇による漁業への対策として、「海面漁業では、サンマ、スルメイカ、サケに見られるような近年の不漁が今後長期的に継続する可能性があることを踏まえ、海洋環境の変化に対応し得るサケ稚魚等の放流手法等の開発を行うこととしています」と説明している。

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