イスラエルとハマスの軍事衝突の危機が2023年10月16日、頂点に達した。イスラエルに進出している日本企業はどうなるのだろうか。
帝国データバンクが10月11日に発表した「特別企画:日本企業の『イスラエル進出』動向調査」によると、現在、イスラエルに進出している日本企業は92社。「戦争」の影響はどうなるのか。調査担当者に聞いた。
中東の「シリコンバレー」に投資
帝国データバンクの調査は、同社が保有する企業データベースに加え、各社の開示情報などをもとに、イスラエルに直接出資したり、現地に法人や施設を持っていたりする企業を割り出した。
その結果、2023年9月時点で92社が判明した。このうち、具体的な進出先が分かった72社の進出地域をみると、事実上の首都・テルアビブ市を中心とした「テルアビブ地区」(39社)が最も多く、ペタフ・チクヴァなど「中央地区」(15社)をはじめ地中海沿岸部の進出が目立った。特に被害が大きいガザ地区近隣への進出事例は確認されなかった。【図表1】。
92社を業種別にみると、最も多いのは「製造業」(41社)で、全体の半数弱を占めた。製造業は販売目的での進出が多かったほか、現地スタートアップとの協業や出資目的も目立った。次いで、「卸売業」(20社)、「金融・保険業」(12社)と続いた。「金融・保険業」も、現地ベンチャーキャピタルの組成や出資目的の進出が中心だ【図表2】。
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。
――今の切迫した状況をどうみますか。
飯島大介さん イスラエル軍がガザを包囲している状況は、まさに一触即発、ウクライナ戦争が起こる直前の2022年2月、ロシアがウクライナとの国境に大軍を集結させた状況を思い起こします。
――日本経済新聞などの報道によると、イスラエルに進出している日本企業はソニーグループ、日立製作所、日本電気、楽天グループ、富士通、オリックス、キヤノン、SOMPOホールディングス、NTTファイナンス、味の素、田辺三菱製薬、オリンパス、電通グループ、そして総合商社各社と、業種を問わず大企業が大半です。なぜ、これほどさまざまな分野の大企業がイスラエルに集まっているのでしょうか。
飯島さん イスラエルは、中東の「シリコンバレー」といわれるハイテク大国です。人口は約900万人ですが、労働力の14%、GDP(国内総生産)の5分の1がハイテク関連と言われます。
周囲をアラブ諸国の敵に囲まれ、軍事力で守らなければなりませんから、建国当初から軍事力のハイテク技術を発達させてきました。軍の優秀な人材が民間に流れて、現在、ハイテク関連の多くのスタートアップ企業が誕生しており、世界中から投資を求めています。
「この人の、この技術を得たい」ため社員にした
――すると、日本企業はイスラエルの優秀なハイテク技術を求めて集まっているわけですか。
飯島さん そのとおりです。2015年1月、同じく日本のハイテク立国化を目指していた安倍晋三首相(当時)がイスラエルを訪問、情報通信技術分野を中心に経済連携協定と投資協定を結びました。
そして、政府が主導するかたちで企業にイスラエルへの進出を要請し、現地のベンチャー企業への投資を勧めたのです。
だから、多くの分野の企業が現地に進出していますが、工場を建てるわけではなく、多くが研究開発の拠点や、投資が基本です。IT関連企業のほかに金融・保険業が多いのも投資が目的です。
――進出企業の4割以上を製造業が占めていますが、それも投資が中心ですか。
飯島さん はい。投資の方法はさまざまです。メーカーが現地にベンチャーファンドの子会社を作り、スタートアップ企業に投資したり、M&A(企業の合併や買収)をしたりして、吸収した技術を国内の生産に生かしています。
――イスラエルとハマスの軍事衝突が激化したら、日本企業や日本経済にどんな影響があるでしょうか。
飯島さん イスラエルでは、すでに30万人の予備役招集が始まっていると伝えられています。当面の心配は、日本企業で働くイスラエル人社員が軍に召集されることです。
彼らは単なる現地従業員ではありません。「この人の、この技術を得たい」ために、投資やM&Aを通じて社員にした貴重な人材ですから、進出した日本企業にとっては大きな痛手です。
中長期的には原油高騰が心配です。ただ、日本経済全体からみると、原油問題を除けば影響は軽微といえるでしょう。イスラエルが日本に輸出するものは「技術」が中心ですから、たとえば、台湾から半導体部品の輸出が途絶えると、日本の自動車産業全体がストップしてしまうといった事態とは大違いです。
もっとも、日本のオレンジ果汁の1割はイスラエル産ですから、飲料関係には影響が出るかもしれません。
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)