10月2日、2023年度後期のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の放送が始まった。ドラマのヒロインは、戦後の大スター、笠置シヅ子さん(1914~1985)がモデル。笠置さんは1947年発表(レコード発売は1948年)の「東京ブギウギ」の大ヒットで知られ、ドラマのタイトルも同曲にちなんだものだ。
放送が始まり、思わぬところでX(ツイッター)の話題になっていたのが、「朝ドラ、『クリアアサヒ』のことばかり考えてしまった」、「ブギウギ聴くと『クリアアサヒしか出てこない」といった声が上がる事態となっている。
なぜなら、アサヒビールの「クリアアサヒ」のCMには、「東京ブギウギ」の替え歌が使われているからだ。なかには、「うちの子らも東京ブギウギはクリアアサヒのCM曲(オリジナル)だと思ってたみたい」といった声も。
思えば、CMに昔の楽曲の「替え歌」が使われることは決して珍しい話ではない。それはなぜか。昔の楽曲を「替え歌」にするメリットは何か。J-CASTニュースBiz編集部は、その謎に迫るべく、有識者に意見を求めた。
2023年も多数の替え歌がCMに
「なんで最近のCMは昔の楽曲の替え歌が多いのか」
Xなどでは、そんな声が上がることが少なくない。そこで、CMに昔の楽曲が使用された例を調べてみると、たしかに2023年だけでも、
3月公開:明星食品「夜店の一平ちゃん」→クレヨンしんちゃん主題歌「ダメダメのうた」
4月公開:三菱自動車「デリカミニ」→キャンディーズ「年下の男の子」
10月公開:日本マクドナルド「三角チョコパイ」→RIP SLYME「太陽とビキニ」
といった例が確認された。
東京ブギウギは「知らない人はまずいません」
昔の楽曲の「替え歌」を使うケースについて、放送コラムニストの高堀冬彦氏は、CMに替え歌が使われる場合、元の曲に消費者への訴求力があるとCM制作者には判断されている、と解説する。
「NHK連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロイン・花田鈴子のモデルである笠置シズ子さんが歌った『東京ブギウギ』の替え歌はアサヒビール『クリアアサヒ』などのCMに使われてきましたが、狙いはまず、やはり浸透度。古い歌でありながら、繰り返し映画、ドラマ、CMで使われてきたので、知らない人はまずいません。また、この曲を使うだけで容易に戦後ムード、レトロムードが出せます」
同様の例として、高堀氏は1977年に発売されたピンクレディの楽曲「渚のシンドバッド」も挙げた。
「古い曲のほうが浸透度は高くなりがちです。ピンクレディの『渚のシンドバッド』などは夏になるたび、毎年のように流れ、CMなどに使われてきましたから。日本人に擦り込まれていると言ってもいいです」
やはり、かつて大ヒットした曲は幅広い世代に訴求力があるようだ。その一方で、高堀氏は、特定の年齢層を狙うことで、複数の世代への訴求をはかる方法もあると語る。
「『太陽とビキニ』は2008年の曲。当時、中高生だった世代は母親世代になっています。親子に向けて売りたい商品のCMソングは古い歌のほうが親の世代に刺さります。一方で、一周回っていますから、子供の世代には新鮮です」
前述したように、「東京ブギウギ」を「クリアアサヒ」のオリジナルCM曲だと我が子が認識していたとするものは、まさにこのことを指すといえるだろう。
「古い曲だから安上がりとは必ずしも言えません」
そのうえで、高堀氏は選曲方法について、「当時のセールスだけでなく、カラオケの利用回数も参考にする」と説明する。
ちなみに、その使用料については、「使用料について説明します。多くの曲を管理する一般社団法人日本音楽著作権協(JASRAC)の作品をCMで利用する場合、2種類の使用料が発生します」とのことだ。
また、その内訳として、
「コマーシャル放送使用料は、全作品一律の料金で作品ごとに変わることはありません。コマーシャル放送用録音使用料は、作品の著作権者が、直接指定する金額となります」
と解説する。ところで、素朴な疑問で、こうした「替え歌」などは、制作費の抑制になるものなのだろうか――。
「古い曲だから安上がりとは必ずしも言えません。また、新しい曲は大半がタイアップです。アーティスト側は新曲を売りたいので、CMに使って欲しく、比較的安価で使用を許可します」
高堀氏は、そう話していた。
(J-CASTニュースBiz編集部 坂下朋永)