人手不足が深刻な物流産業を魅力ある職場とするため、働き方改革に関する法律が2024年4月から適用される。一方で、トラック運転手の残業が大幅に減ることで物流停滞が懸念される「2024年問題」に直面する。
そんななか、東京商工リサーチが2023年10月5日、「2023年度上半期(4-9月)『人手不足』関連倒産の状況」という調査を発表した。全体的に「人手不足」倒産が4~9月は過去最多を記録したが、中でも運送業が前年同期の5倍以上に達した。来年を待たずに、日本経済を下支えする物流の危機が浮き彫りになった形だ。調査担当者に聞くと――。
2024年の物流は14%減、2030年は34%減
2024年4月から働き方改革関連法が適用され、長時間労働が当たり前だった運輸・物流、建設業界で働く労働者の残業時間や休日出勤に厳しい上限が設けられ、罰則規定が導入される。
たとえば、トラック運転手の時間外労働を年960時間までとする規制が導入されることで、物流の停滞が懸念される。これが「2024年問題」だ。
報道によると、政府は10月6日、首相官邸で「2024年問題」に関する関係閣僚会議を開き、通販の配送時に玄関前に荷物を置く「置き配」を選んだ消費者へのポイント還元策などを盛り込む対策をまとめた「物流革新緊急パッケージ(案)」を決定した。
これをみると、政府の試算では、何も対策を講じない場合、2024年度には14%、30年度には34%もの輸送力が不足する可能性があることがわかる。
東京商工リサーチの調査は、2023年度(4~9月)の全国企業倒産(負債1000万円以上)のうち、「人手不足」関連倒産(求人難・従業員退職・人件費高騰)を抽出して分析したもの。
倒産件数は82件と前年同期の2.6倍に達し、調査開始以降で最多を記録した。要因をみると、「人件費高騰」と「求人難」による倒産が多く、賃上げが広がるなかで資金繰りの悪化した企業が増えている【図表1】。
産業別にみると、最多が飲食業(8件)を含むサービス業他の25件(前年同期比127.2%増)。次いで、建設業(同171.4%増)と運輸業(同533.3%増)が各19件の順だった【図表2】。
運輸業の前年同期比5倍以上という数字は、突出している。飲食業や建設業と並んで、人手不足に悩まされてきた業界だが、ここにきて急に倒産件数が増えた背景には何があるのだろうか。J-CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した東京商工リサーチ調査部の坂田芳博さんに話を聞いた。
原油高、ドライバー不足、人件費増の三重苦
――運輸業界の苦しい状況、これからどうなるのでしょうか。
坂田芳博さん 運輸業界の倒産の背景には、実はずっと続いている原油高の影響があります。しかも最近、イスラエルと、パレスチナを実効支配するハマスが戦争状態に入り、中東地域の緊張が高まってきました。原油がどこまで上がるか、とても不安です。
これは日本の運輸業界にとって大ピンチです。もともとガソリン高騰というコストプッシュがあり、そのうえに慢性的な人手不足があるため、人件費を上げてドライバーを確保しなければならないという、厳しい三重苦状態でした。
――そこに、10月1日から最低賃金の上昇が加わりましたね。
坂田さん はい。大手企業はいいですが、人件費を上げられない中小企業は倒産に追い込まれるところが多いでしょう。M&A(企業・事業の合併・買収)のにおいを感じます。
大手が中小を買収することは、人手不足解消の近道です。運輸業界には「トラックはいらないけど、人は欲しい」という言葉があります。弱いところは人間ごと吸収されたほうが、少なくても賃金がもらえるだけ幸せです。吸収されずに破綻するところは悲劇です。
M&Aは、倒産のデータには出ませんから、実態はわかりませんが、かなり進むと思われます。
――倒産にはどんなケースがありますか。
坂田さん 川崎市のM社の場合(負債総額約7億7000万円)、運送業界で経験を重ねた代表者が、その経験・人脈を生かして独立。EC(電子商取引)関連を主体とした宅配案件を物流大手から受注し、積極的な展開で売上高は右肩上がりでした。
コロナ禍によるEC需要の高まりも追い風となって、2022年2月期売上高は約12億円にまで拡大したのです。ところが、下請受注による構造的な低採算に加え、ドライバー不足もあっての外注費負担が重荷となって、売上増に対して薄利傾向が続き、資金繰りに行き詰りました。
――2024年4月から運輸業界の運転手の残業時間の上限が年間960時間に定められますが、守られるでしょうか。
坂田さん たぶん、中小業者や下請け業者の中には、守らないところも出てくるでしょう。運ぶ荷物量が減るわけですから、発注元から「明日からいらない」と仕事を切られる可能性があるし、残業を増やさない代わりに、時給を下げるところが出る可能性もあります。
業界全体として、新しい働き方をしっかり守っていく必要があります。
新幹線まで「助っ人」に
――それには、どうしたらよいでしょうか。
坂田さん 運輸業界には「トラックの6割は、空気を運んでいる」という言葉があります。この空荷で走る無駄をいかになくすかがカギです。M&Aを進めて集約する方法もありますが、業界全体が協同組合でやっていくしかないでしょう。
A社が発注した荷物の帰りの空のトラックに、B社が発注する荷物を載せるようにお互いに調整する。あるいは、各社の荷物を小分けして、同じエリアやルートをまとめて運ぶ方法です。
それには、配送センターを共同で使い、トラック運転手を共通で使う必要があります。
――業界全体が、運命共同体でやっていくわけですね。
坂田さん はい。輸送業界全体を巻き込んだ新しい方法も進んでいます。荷物を途中まで鉄道や飛行機、船などで運ぶやり方です。
これまでも新幹線では、車内販売の準備室などで小口の荷物を置く方法がとられていましたが、JR東日本が今年8月31日に、荷物だけを運ぶ上越新幹線の臨時列車を走らせる実証実験を行いました。
旅客のいない東京と新潟の車両基地で、荷物を積み下ろしすることで作業を効率化し、過去最大規模となる約700箱を輸送したのです。
――新幹線まで助っ人に参入してくれるとは、速くて頼りになりますね。
坂田さん 運輸業界の倒産は、物流が滞るリスクになり、実はいろいろな業界に影響します。日本経済全体に倒産が広がる恐れがあります。
経済界全体が運送業界を支援する必要があります。先ほどの川崎市のM社の例がそうですが、ももともと「売り上げが伸びても、利益があがらない」のがこの業界の常。運送業界が価格転嫁を進めて、高くなっている運転手の人件費を出せるような適正価格を認めないと、日本経済自身の首を絞める事態になると考えています。
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)