原油高、ドライバー不足、人件費増の三重苦
――運輸業界の苦しい状況、これからどうなるのでしょうか。
坂田芳博さん 運輸業界の倒産の背景には、実はずっと続いている原油高の影響があります。しかも最近、イスラエルと、パレスチナを実効支配するハマスが戦争状態に入り、中東地域の緊張が高まってきました。原油がどこまで上がるか、とても不安です。
これは日本の運輸業界にとって大ピンチです。もともとガソリン高騰というコストプッシュがあり、そのうえに慢性的な人手不足があるため、人件費を上げてドライバーを確保しなければならないという、厳しい三重苦状態でした。
――そこに、10月1日から最低賃金の上昇が加わりましたね。
坂田さん はい。大手企業はいいですが、人件費を上げられない中小企業は倒産に追い込まれるところが多いでしょう。M&A(企業・事業の合併・買収)のにおいを感じます。
大手が中小を買収することは、人手不足解消の近道です。運輸業界には「トラックはいらないけど、人は欲しい」という言葉があります。弱いところは人間ごと吸収されたほうが、少なくても賃金がもらえるだけ幸せです。吸収されずに破綻するところは悲劇です。
M&Aは、倒産のデータには出ませんから、実態はわかりませんが、かなり進むと思われます。
――倒産にはどんなケースがありますか。
坂田さん 川崎市のM社の場合(負債総額約7億7000万円)、運送業界で経験を重ねた代表者が、その経験・人脈を生かして独立。EC(電子商取引)関連を主体とした宅配案件を物流大手から受注し、積極的な展開で売上高は右肩上がりでした。
コロナ禍によるEC需要の高まりも追い風となって、2022年2月期売上高は約12億円にまで拡大したのです。ところが、下請受注による構造的な低採算に加え、ドライバー不足もあっての外注費負担が重荷となって、売上増に対して薄利傾向が続き、資金繰りに行き詰りました。
――2024年4月から運輸業界の運転手の残業時間の上限が年間960時間に定められますが、守られるでしょうか。
坂田さん たぶん、中小業者や下請け業者の中には、守らないところも出てくるでしょう。運ぶ荷物量が減るわけですから、発注元から「明日からいらない」と仕事を切られる可能性があるし、残業を増やさない代わりに、時給を下げるところが出る可能性もあります。
業界全体として、新しい働き方をしっかり守っていく必要があります。