みなさんは「デザインの敗北」というワードをご存知でしょうか?
「デザインの敗北」とは、いわゆるインターネットスラングのひとつ。公共施設の案内表示などについてデザイン性を重視した結果、本来伝えなくてはならない情報が利用者に伝わりづらかったり、意図しない利用を招いてしまったりする失敗例を指す言葉として使われます。
X(Twitter)でも「デザインの敗北」への関心は高く、たびたび類例が画像とともに投稿されては注目を集めています。ツイートまとめサービスのTogetter(トゥギャッター)が解説する「3分くらいで分かる週刊X(Twitter)トレンド【J-CAST出張版】」、今回は「デザインの敗北」について掘り下げます。
トイレの案内マークは「デザインの敗北」あるある?
「デザインの敗北」について、とりわけ頻繁に話題に挙がるのが「トイレの案内マーク」です。
2018年にオープンした複合施設「東京ミッドタウン日比谷」もそのひとつ。あるユーザーが「まさに『デザインの敗北』」といったコメントとともにツイートした施設内の画像には、トイレなどの案内を示すピクトグラムが掲示された場所の近くに、「トイレ Restrooms」と大きく書いた紙を印刷した立て看板が置かれている様子が映っています。
画像を見ると、掲示していたピクトグラムのサイズが一般的な施設にあるものと比べてかなり小さく、その視認性の悪さから、施設側がトイレを探す利用者向けに別途立て看板を設置した形だと思われます。
【デザインの敗北】東京ミッドタウン日比谷の『極力シンプルで美しいデザインにしよう』という意識がトイレのアイコンを小さくしすぎて看板が設置されてしまう
他のユーザーからも「オシャレもええけどこういうのは実用性よねぇ」や「デザイナーの傲慢だねー。利用する人の事考えてないデザインはデザインじゃないと思ってる」などと辛辣なコメントが相次ぎました。
内装のデザインで、サイズを小さくするなどして周囲に溶け込む目立たない形に調整する手法はさまざまな場所で取り入れられていますが、不特定多数の人々が利用する施設の案内図は、トイレに限らず「わかりやすさ」を重視する人が多いようです。
見栄えの良さを優先した結果として案内が本来の役目を十分に果たすことができず、最終的に余分な案内を追加して不足を補う必要が出てきてしまったという構図は、まさに典型的な「デザインの敗北」と言えるのではないでしょうか。
Xで話題になった「デザインの敗北」には、他にも「テプラが貼られまくったコンビニのコーヒーマシン」や「統一デザインにしたため区別がつきにくくなったコンビニのPB(プライベートブランド)商品」などがあります。
「デザインの敗北」ではなく、「ダメなデザイン」では?
「デザインの敗北」のようなスラングは、キャッチーなので使いやすい反面、定義があいまいです。「デザインの敗北」の事例が拡散されたことをきっかけに、その用法や定義に疑問を投げかける意見が議論を呼びました。
起点となった投稿も、トイレの案内マークについての事例でした。ある施設のトイレについて、ピクトグラムが一見すると性別が分かりにくいデザインになっており、ピクトグラムの下に「男性トイレ」と書かれた紙が追加で貼られたという話です。
こちらの投稿にも「デザインの敗北」という言葉を伴った反応が相次ぎました。
一方でこちらの投稿に対して、あるユーザーが「こういうのは『デザインの敗北』ではなく『駄目な・質の低いデザイン(をした結果)』である」と指摘し、注目を集めました。
「『デザインの敗北』だと『デザインは悪くない(または良い)けど他の要素に負けた』と受け取れるが、今回の場合は『男性トイレである』というデザイン本来の目的が果たせていないので、『デザインがよくない』と言うべき」というのです。
ネットスラング「デザインの敗北」は「駄目なデザインをした結果」なので間違った日本語という指摘 「敗北のデザイン」がしっくり来るの声も - Togetter
この投稿について、「そもそもデザインという言葉をどう捉えるべきか」といった根本的な視点や、一般的なトイレマークを超えるデザインを提示できなかったという文脈で「どちらかというと敗北のデザインだよな」とする声などが出て議論が盛り上がりました。
「デザインの敗北」という言葉は、逆にデザインの意味そのものを考えるきっかけを与えてくれそうです。
逆に「本当に良いデザイン」ほど気づかれにくい?
これまで「デザインの敗北」について触れてきましたが、逆に「デザインの勝利」、つまり良いデザインとはどのようなものでしょうか。Xでも、その点について言及するポストに注目が集まりました。
あるXユーザーが「良いデザインで作られたものは生活に溶け込むことが多いので、『デザインの勝利』の例は利用者からは気付かれにくい」という主旨の投稿をし、注目されました。
そのユーザーは、本を例にとって「手に取ってる本がすんなり読めてたらそれだけでデザインの勝利を目の当たりにしてることになるんだけど、誰も声高には言わない」とも書いています。
『デザインの勝利は生活に溶け込むので気づかれにくい』用途通り違和感なく使えることのすごさと"当たり前"な仕事の性質
この投稿に、他のユーザーからは「UI(ユーザーインターフェース)や実空間の導線設計は、うまくデザインしてるほど意識にのぼらない」「良いデザインは気づかないくらい巧みに設計されているということ」といった同意の声が寄せられました。
他にも「(誰もが意識せず使っているという点で)インフラみたいだな」「トラブルを未然に防ぐ系の仕事と似てる」といった別の事例に重ねるコメントや、「『存在が意識されなかったこと』が最高の賛辞だと思う」「なるべく気づいて褒めていきたいな」と、良いデザインに対して意識を向けようとする声も見られました。
「デザインの失敗」は悪目立ちするぶん話題になりやすいですが、それと同じくらい良いデザインも世の中にはたくさんありそうです。ときには周囲を見渡して、さまざまなデザインに思いを馳せてみるのも良いのかもしれません。
以上、Togetterがお送りする「3分くらいで分かる週刊X(Twitter)トレンド【J-CAST出張版】」でした。今回紹介したTogetterまとめを振り返りたい方はこちらからどうぞ。次回もお楽しみに。
【まとめ一覧】
【デザインの敗北】東京ミッドタウン日比谷の『極力シンプルで美しいデザインにしよう』という意識がトイレのアイコンを小さくしすぎて看板が設置されてしまう
ネットスラング「デザインの敗北」は「駄目なデザインをした結果」なので間違った日本語という指摘 「敗北のデザイン」がしっくり来るの声も - Togetter