故ジャニー喜多川氏の性加害問題を受けてジャニーズ事務所が2023年10月2日に開いた記者会見で、新会社の副社長に就任する井ノ原快彦さんが「落ち着いていきましょう」などと報道陣に呼びかけた場面が、様々な論者から論点をすり替える行為ではないかと批判されている。
こうした批判について、専門家は「言い過ぎ」ではないかとJ-CASTニュースの取材に見解を示す。「間違いなく加害者の立場で言うべきではなかった」としつつも、井ノ原さんに論点をすり替えたいという意図はなかったと分析する。
「どうか落ち着いてお願いします」
会見の質疑応答では「一社一問」のルールが設けられ、司会者から指名された記者が質問するという流れだった。しかし、指名されない記者が声を上げて抗議し、「ちゃんとルール守れよ」と記者同士で怒号が飛び交う場面もあった。
こうした抗議に対し、井ノ原さんは「落ち着いていきましょう」などと会見中に繰り返し呼びかけた。井ノ原さんが終盤に訴えた以下の発言に対しては、一部の報道陣から拍手が起こった。
「できる限りルールを守りながら、ルールを守っていく大人たちの姿をこの会見では見せていきたいと僕は思っていますので、どうかどうか落ち着いてお願いします」
しかしSNSでは、井ノ原さんの発言が「トーンポリシング」だと批判の声が相次いだ。複数新聞によると、これは相手の発言内容ではなく話し方や口調などを批判し、論点をすり替える行為を指す。テレビ番組でも、今回の発言はトーンポリシングであると識者が指摘して話題になった。
さらに、今回の会見では特定の記者を指名しないようにする「NGリスト」が存在していたと報じられ、井ノ原さんに対するSNS上の批判も強まった。ジャニーズ事務所は「弊社の関係者は誰も作成に関与しておりません」「指名をしない記者を決める等も全く行なっておりません」と公式サイトで釈明している。
井ノ原さんの発言はどのような問題点があるのか。毎日放送(MBS)の元プロデューサーで同志社女子大学教授・影山貴彦氏(メディアエンターテインメント論)は10月5日、「加害者側である立場の人が言うセリフではなかった」と取材に説明する。
仮に一般の経営者が会見中に「落ち着いてください」と発言したら、報道陣から批判の声が上がったと予想する。しかし、経営者ではなくタレントとしての井ノ原さんの発言に「周りを巻き込む説得力」(影山氏)があったため、記者から思わず拍手が起こるような事態も起こったのではないかと推測する。
「一部の記者だけが熱くなっているという印象を与えてしまった」
井ノ原さんの発言はトーンポリシングなのか。影山氏は「それはちょっと言い過ぎかなと思います」とし、以下のように分析した。
「井ノ原さんを庇うつもりはなく、加害者の立場で言うべき発言ではなかったと思いますけれども、少なくとも井ノ原さんの姿を見ていると、『落ち着いていきましょう』というのは純粋に心の内から出た言葉だと思うんですよ」
論点をすり替える意図はなかったのではないかと述べる影山氏。今回の記者会見では「記者の対応」にも問題があったとし、「あまりにも目に余る空気があったからこそ、井ノ原さんはああいう発言をしたんじゃないでしょうか」と推測する。
「記者の感情的なやり方を、視聴者や読者などの受け手は支持しておらず、一部の記者は冷静さが欠けていたと思います。知りたい人たちの代表者として聞いているにもかかわらず、一部の記者だけが熱くなっているという印象を与えてしまったのではないでしょうか」
井ノ原さんが記者に対して「落ち着いてください」と言ってもよい状況だったと、影山氏は振り返る。では、加害者側である井ノ原さんはどのように発言すればよかったのか。
例えば「私が言えるような立場ではないと思うんですけど、大きな声を出さずにやり取りができればと思います。すみません、生意気なことを言って」などと配慮しながら話す方法があったのではないかと説明した。