ジャニーズ問題招いた「本当の元凶」 のんエージェントが指摘する芸能界の悪しき慣習「監督官庁はテレビ局を見て指導すべき」

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   ジャニー喜多川氏=2019年に87歳で死去=の性加害が明るみになったジャニーズ事務所をめぐる問題では、テレビ局や芸能事務所といったステークホルダーが与える影響も無視できない。日米の映画業での経験が長く、俳優・のんさん(30)のエージェントを務めるコンサルティング会社「スピーディ」の福田淳社長は、制作・送信を一手に握るテレビ局の立場が強く、タレントの立場が弱い構造が「日本の芸能界を近代化させない要因」だとみている。インタビュー後半では、この問題に焦点を当てた。福田さんは、「変革に時間がかかっている」として、監督官庁がテレビ局にヒアリングを行い、芸能事務所をライセンス制にすることが必要だと訴えている。(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)

   (前編<「2年先までほぼ休みなし」のんが切り開く独自路線 ジャニーズ問題で「能年玲奈」使えない問題脚光...エージェント語る7年半>から続く)

  • ジャニーズ事務所が10月2日に改めて開く記者会見の内容が注目されている(写真は9月7日の記者会見)
    ジャニーズ事務所が10月2日に改めて開く記者会見の内容が注目されている(写真は9月7日の記者会見)
  • ジャニーズ事務所が10月2日に改めて開く記者会見の内容が注目されている(写真は9月7日の記者会見)

芸能事務所は何の権限もなく「口利き」する

―― 今回のジャニーズ事務所をめぐる一連の事案をどう受け止めますか。のんさんが置かれた事態を打開するきっかけになると感じますか。

福田淳社長(以下、敬称略): 大きな変革の時が来たと思います。結局クライアントの多くは「右にならえ」で、ジャニーズ所属タレントの起用を見直したり、人権重視を打ち出したりしています。ですが、上場企業であるテレビ局については、忖度と、稼ぎ続けたいという気持ちで変革に時間がかかっています。そんなことが免許事業で許されるのでしょうか。
   高市早苗総務相(当時)は、15年の放送法をめぐる発言が「表現の自由を脅かす」と強い批判を浴びましたが、こんな無茶苦茶に表現の自由を曲解している連中に、表現の自由もないと思います。英国では(入札の失敗で)テレビ局の免許を取り消された事例もあります。監督官庁は、多くの業種で行政指導をするものですが、テレビ局についてはタブーになっているようです。
   ただ、今回については機運が盛り上がっているので、秋の臨時国会が開けば、テレビ局がどういう人権意識で経営しているかについて総務省がヒアリングすべきだと声高に訴えていこうと思います。それは、ある程度うまくいく気はしています。

―― 元凶はテレビ局ですか。

福田: 日本は米国と違って、テレビ局が制作とディストリビューション(送信)の両方の権利を持っている歴史的経緯があります。そうすると「テレビ局→制作プロダクション→芸能プロダクション→タレント」という構造になり、タレントが最下層になってしまいました。でも本来、世界的なスタンダードは、タレントが1番、コンテンツが1番。それに対してコンテンツが最後なのが日本なんです。この構造のいびつさが日本の芸能界を近代化させない要因になっています。
   実は芸能事務所というのは、何の権限も権利もビジネスライセンスもありません。口利きをするだけなんですよ。だから僕は、監督官庁が主導して、フェアな取引を可能にするためのビジネスライセンス制度にすべきだと訴えています。しかるべき労務管理やギャラの配分をきちんとしているのかを透明化してはじめて、きちんとした産業だといえるのではないかと考えています。
   人権デューデリジェンス(人権保障などのルールに適合しているか調査すること)について報告することも重要です。さらに言えば、テック系だとか、ある程度グローバルスタンダードの経営がわかっている人がこの分野に入ってこないと、正常化は難しいのかなという気はしています。悪しき慣習を改めるためには、経営陣が入れ替わらないとだめですね。

不透明なキャスティングが日本のドラマのレベルを下げた

コンサルティング会社「スピーディ」の福田淳社長。テレビ局は「変革に時間がかかっている」として、総務省がヒアリングを行うべきだと訴えている
コンサルティング会社「スピーディ」の福田淳社長。テレビ局は「変革に時間がかかっている」として、総務省がヒアリングを行うべきだと訴えている

―― 「タレントに罪はない」という指摘もあります。

福田: タレントはいい会社と思って就職したら、そのうちビッグモーターになっちゃったんですよ。こんなひどい評判になってどうします?と言われたら転職しますよね。移籍の自由をきちんとルール化すべきです。

―― 仮にジャニーズ事務所にいる人で「もう僕辞めます」となったら、福田さんの会社でマネジメントを引き受ける可能性はありますか。

福田: 引き受けますし、やっぱりきちんとした対価の話だとか、仕事の構造をまず説明して、その人が持っているブランド力、踊りが得意なのか歌なのか、喋りなのか、ということによってブッキングしていきますね。それが普通の仕事の進め方です。
   ところがこれまで、いくつかの大手事務所は、仮にAさんが大ヒットを出したとすると「Aさんにヒットが出たから、次はBとセットにしなきゃ駄目だぞ」といったことをやってきたわけです。こんなことを繰り返してきたから、日本のドラマは韓国に比べて低レベルなのはもちろん、世界的に一番レベルが低い存在になってしまいました。キャスティングの透明化は絶対必要です。他にそういう透明な経営をやっているところがないので、今後ビジネスマンとしてやっていきたい人はうちの会社に来るべきだと思います。
   日本人の有名俳優やタレントが大金持ちの時代じゃなくなったのは悲しいですよね。宍戸錠さんや石原裕次郎さんといったら、ちゃんと大金持ちだったじゃないですか。そういうふうにコンテンツが上だった時代が映画の全盛期だったはず。それが、テレビが自力でコンテンツを供給できるようになった1980年代から、今のトレンドが始まっています。

―― ガラパゴス化していますね。海外に活路を求めるというのも一つの考え方です。

福田: 国内需要だけでいいというならともかく、グローバルスタンダードを勉強した方がより収入にもなるし、日本の魅力にもなります。(国内に)閉じていることによってベネフィット(利益)を最大限享受できていたのですが、それができなくなったことに、マネジメントの仕方が古いから気づいてないのだと思います。
   本当は香港だとか、ハリウッドに行った方が機会がある。少し前までは英語もきちんと話せない中国人女優がハリウッド映画に多数出演していました。アリババやテンセントが出資するからです。米中関係の悪化でそれもなくなりつつあるので、日本にとっては非常に機会が大きいはずです。

全ての芸能事務所が移籍の自由のルール化を

―― ジャニーズ事務所は10月2日に新体制を発表します。社名を変更した上で所属タレントを別会社に移籍させる案が報じられているほか、社長を引責辞任した藤島ジュリー景子氏の持ち株比率がどう変化するかもポイントです。

福田: 報道の通りだとすると、旧来の事務所は被害者救済に専念して、新しい会社は負の遺産を引き継がないで、日本のエンタメを引き続き牽引していってほしいものですね。これをきっかけに、全ての芸能事務所が移籍の自由をきちんとルール化して、監督官庁はテレビ局をちゃんと見て指導すべきだと言っているのです。

福田淳さん プロフィール
ふくだ・あつし ブランドコンサルタント、スピーディ社長。1965年、大阪府生まれ。日本大学芸術学部卒。ソニー・ピクチャーズエンタテインメントを経て、2007年にソニー・デジタルエンタテインメントを創業。17年に株式会社スピーディ設立。「のん」をはじめとする俳優・ミュージシャンなどのタレントエージェント、ロサンゼルスでのアート・ギャラリー運営などを行っている。金沢工業大学大学院客員教授や横浜美術大学客員教授も務める。著書、講演多数。

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