夏季のフィンランドで主に外国人労働者が従事し、一部では人身売買などの問題も報じられている「ベリーピッカー」と称される仕事を、「2カ月半で15年分の年収」などと紹介した投稿がX(ツイッター)で物議を醸している。
情報サイト「女の転職type」のウェブマガジン「Woman type(ウーマンタイプ)」の記事としても公開されており、同編集部は2023年9月23日、「実態と異なる」という指摘が多く寄せられたため非公開にしたとXで発表した。投稿者は削除の上、「誤解を招いてしまった」と謝罪している。
「2カ月半で15年分の年収を稼ぐ!?」
発端は、フィンランドでの暮らしをSNS発信などしているコミックエッセイスト・chikaさんが20日、ベリーピッカーについて解説する4ページの漫画をXに投稿したこと。
漫画では、フィンランドの森には様々なベリーが野生していて「大量に摘むのはなかなかの重労働」と前置き、夏季限定で、ベリー加工会社がタイの派遣会社から人材を雇い入れるような構図があると述べる。
昨年は4000人が来たといい、ピッカーの収入は会社によるものの収穫に応じて支払われると説明。農村部に住むタイ人にとって15年分にあたる稼ぎを得るケースもあり、親子で毎年参加する人もいるとした。
投稿文には、ウーマンタイプの連載として同日に公開した記事「2カ月半で15年分の年収を稼ぐ!?フィンランドの謎仕事『ベリーピッカー』を調査」のURLも添えた。記事には漫画の5ページ目が掲載されており、長時間労働や低収入のリスクなどに言及している。下記のようなコメントも伝えた。
「ベリーピッカーのお仕事には、労働環境や人身売買、賄賂などの問題も絡んでいます」
「十分な生活資金を持っていることを証明しないとビザが取れない仕組みになるなど、新しい取り組みも行われていますね」
実際、これらの問題は現地でもたびたび話題にのぼっている。例えばタイの在ヘルシンキ大使館は1月、渡航前に自分の出費・負債を全て把握し、その年の果物量と販売価格が変動するリスクを負う覚悟も必要だとフェイスブックで注意喚起した。でなければ、借金を背負う事になりかねないという。
タイ人ピッカーをめぐりフィンランド国営放送・Yleは、今年はビザ手続きの変更が大きく影響し、6月1日までに、入国者はいないことが確定視されているとウェブ記事で報じた。来シーズンに向けて人が集まらなければベリー業界が非常に深刻な危機に陥るとの関係者談も記されている。
「誠実な作品をお届けできるよう」作者反省
Xではchikaさんの投稿を受けて「この仕事やりたい」と反応が出た一方、「美談のように切り取り発信するのは間違った認識を広める」「楽しそうに描くのはどうかと」といった声があがっている。
そのような状況でウーマンタイプ編集部は23日、次のようにポストした。
「9月20日に掲載いたしました『週末北欧部chikaのフィンランドおしごと日記』の記事について、実態と異なるというご指摘が多く寄せられたため、非公開とさせていただきました。いただいたご意見を確認し、改めて今後について検討いたします」
漫画を手がけたchikaさんは24日になって謝罪した。
「9月20日公開のベリーピッカーに関する記事について、多くの方から実態と異なるとのご指摘を頂き、該当記事の投稿およびウェブサイトの記事を削除し非公開にさせて頂きました。公開した内容により多くの方の誤解を招いてしまったこと、深くお詫び申し上げます」
「今回の混乱に関して、多大なるご迷惑をお掛けしましたこと、重ねてお詫び申し上げます。頂いたご意見を真摯に受け止め、誠実な作品をお届けできるよう再発防止に努めてまいります」
編集部は26日に「こちらの記事に関しましては、内容の事実確認を行なっています。確認・検討にあたり本連載の掲載を一時見合わせます」とも伝えている。