透明化される男性の存在
嬰児殺しが話題になると、SNSでは母親を責める声が広がる。多くの報道では母親の実名などが取り上げられるが、父親について言及されることは少ない。稲葉さんは、女性だけが責められる現状に疑問を抱えている。
「逮捕は、遺棄したことに対すること。もちろんそれは女性がやったことで、そこに男性は存在していません。しかしその場に『男性が存在しない』こと自体が理不尽だと感じています。根本の原因である『望まない妊娠』が起きる背景には必ず男性の存在がある。
妊娠は男性と女性、両方の責任です。しかし物理的には女性だけが妊娠し、男性は逃げられる状況にある。そのために女性にばかり大きく責任がのしかかっているのは理不尽です」
稲葉さんが診てきた「望まない妊娠」が起きた事例としては、性的暴行に限らず、男女が適切な避妊法を知らなかったり、パートナーとの関係性から避妊ができなかったりしたケースもあるという。
「親になる覚悟がないならば避妊するのは大前提です。妊娠してしまった場合には二人で向き合わなければなりません。しかし女性が避妊を希望しても拒否されてしまうという、ありえないことが日常茶飯事で起きています。妊娠させたと知った瞬間、音信不通になったり逃げたりしてしまう男性も存在します。避妊の相談にネガティブな返事をする相手には、話をしてみて、聞く耳をもたないようなら、お付き合いを続けないのが賢明と思います」
コンドームを用いない性交には、性感染症に感染するリスクもある。男性には次のように呼びかける。
「避妊するのは恥ずかしいことではありません。中絶をしたくてしている女性はいません。
もし妊娠させた時に育てられないのであれば、中絶を提案するくらいならば、はじめから避妊してください」
SNSの一部では、「避妊・妊娠・中絶の議論で男性が出てこないことはずっとおかしいと思ってる」「男性も、責任を取りましょう」といった声もある。「中絶や望まない妊娠を減らしたいならば、中絶や妊娠そのものに着目するのではなく、無責任な射精を防ぐ必要がある」などと論じた、ガブリエル・ブレア氏の著書「射精責任」(太田出版)が7月に発売されたことをきっかけに広がっている。