「望まない妊娠」が引き起こす問題
実際に稲葉さんは、望まない妊娠をした女性たちを診てきた。そういった人々の中には、出産するまで妊娠に気づかなかった人もいたと説明する。
「妊娠していることに気づかないなんてありえない、と思われる方が多いと思いますが、本当にありうることなのです。
ふくよかな体形だったために体形の変化に違和感を覚えなかったり、胎動を感じても特に気にしないでいたりする人もいます。このように本当に気付かなかいケースもありますし、妊娠をしている事実を受け入れたくないため確認しないケースもあります」
妊娠に気づかないままトイレで力んで出産してしまうことは、ありえない話ではない。
「妊娠している自覚がない、もしくは妊娠の事実を受け入れられていない人が、自分の体から赤ちゃんが出てきたら、冷静でいられないと思うんですよね。そこで119番を呼べる人もいるかもしれませんが、何もできない人もいると思います。公的には逮捕されてしまう事案ではありますが、殺意とかではなく、気が動転して何もできなかった、ということはありえる話だと思います。もちろん、だからといってしてはならないことに変わりはありませんが」
こうした背景から稲葉さんは、嬰児を遺棄してしまった母親たちに必要なのは「罰則ではなく支援」だと訴える。
「他の犯罪、例えば窃盗罪であれば『盗もう』と思って盗んだことについて、繰り返さないよう罰せられています。しかし『望まない妊娠』をした結果、対処できずに罪を犯してしまったというのは、母親自身がしたくて行ったわけではありません。
今回のような事件は、罰するだけで改善されるものではありません。その女性が同じことを繰り返さないためには、適切な教育やサポートが必要だと感じています」