建築家・坂茂氏、なぜウクライナ・リビウで病院建設? 「住環境で困ってる人がいたら改善する。特別なことじゃない」

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   建築家の坂茂氏とウクライナ・リビウ市のアンドリー・サドビー市長が2023年9月5日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見し、市内の病院で新たな建物を建設する構想を披露した。

   リビウはポーランド国境に近い中核都市で、15万人の国内避難民を受け入れている。中には負傷者も多く、病院をはじめとする治療施設の逼迫(ひっぱく)が課題だ。新棟は、大部分で厚い木の板を向きを変えながら接着したCLT(直交集成板)と呼ばれる素材を利用するのが特徴だ。会見後に復興支援に取り組む理由を改めて問われた坂氏は、医師がけが人を治療するのと同様に、「住環境で困ってる人がいたら、それを何とか少しでも改善するというのは、特別なことではない」などと話した。

  • 建築家の坂茂氏(左)とウクライナ・リビウ市のアンドリー・サドビー市長(右)。2人の間にあるのは病院の新棟の200分の1の模型だ
    建築家の坂茂氏(左)とウクライナ・リビウ市のアンドリー・サドビー市長(右)。2人の間にあるのは病院の新棟の200分の1の模型だ
  • 坂茂氏(左)とリビウ市のアンドリー・サドビー市長(右)
    坂茂氏(左)とリビウ市のアンドリー・サドビー市長(右)
  • 新棟の完成予想イラスト
    新棟の完成予想イラスト
  • 新棟の内装の完成予想イラスト
    新棟の内装の完成予想イラスト
  • 建築家の坂茂氏(左)とウクライナ・リビウ市のアンドリー・サドビー市長(右)。2人の間にあるのは病院の新棟の200分の1の模型だ
  • 坂茂氏(左)とリビウ市のアンドリー・サドビー市長(右)
  • 新棟の完成予想イラスト
  • 新棟の内装の完成予想イラスト

病院は満床で「プロジェクトは、私の街にとって、私の国にとって、非常に重要」

   坂氏は「建築界のノーベル賞」とも呼ばれるプリツカー賞を受賞したことでも知られる。災害支援の実績も多く、プライバシーが保護されにくい避難所向けの紙製パーティション(間仕切り)などが有名だ。坂氏は22年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、2回にわたってウクライナを訪問。発泡スチロールを素材にした復興住宅の建設も進めている。

   サドビー市長は、新棟の意義を

「坂茂氏は、私たちのために大きな贈り物を用意してくれた。2万5000平方メートルの巨大な外科棟だ。私たちの病院の新しい心臓部だ。今日、私たちの病院は満床で、新たに手術とリハビリのための場所が必要だ。このプロジェクトは、私の街にとって、私の国にとって、非常に重要だ」

などと説明した。建物は地上6階・地下2階建てで、費用は、およそ8000万ドル(約117億ドル)を想定。CLTの会社からの支援も見込んでいる。坂氏によると、ウクライナには東欧最大のCLT工場があり、米国やカナダに輸出してきたが、ロシアによる侵攻でストップ。調達が容易で、鉄骨やコンクリートよりも作業が静かな点がCLTのメリットだ。工期も2割程度短縮できるという。

   資金調達ができることを前提に、24年中の着工を目指す。技術的には24年夏から工事を始めることも可能だという。

「僕らが普段相手にしているのは、特権階級なんですよ」

   記者会見後に改めて報道陣の取材に応じた坂氏は、現地を訪問した感想を

「それほど(多くの)手足のない人たちを見たのは初めてだったので、やっぱりショッキングでしたね。その人たちがリハビリに励んだり、明るく振る舞っているのを見ているのはつらいですよね」

などと話した。プロジェクトを進める理由を問われると、医師と比較する形で、建築家は普段は「特権階級」を相手にしていると説明。

「建築家ってね、楽な商売なんですよ。だって例えば家を造るときって、お金持ちの人が多分すごく充実したとき、お金があるときに造るわけじゃないですか?だから僕らが普段相手にしているのは、特権階級なんですよ。お金持っていたり、あるいは行政だったり...。だけどお医者さんって、いつも問題を抱えている人たちの仕事をしているわけじゃないすか。目の前で、例えば敵の人がけがしたって、多分治療しますよね?無料で」

   その上で次のように話し、建築家として「特権階級の仕事」以外への取り組みも重要だと話した。

「だから建築家だって、そういう特権階級の仕事をするだけじゃなくて、目の前で難民生活していたり、仮設住宅にいたりしたら、それを良くするというのは...。目の前に困っている患者さんがいたら医者は当然助けるわけですよね、だから建築家も当たり前だと思うんです。そういう住環境で困ってる人がいたら、それを何とか少しでも改善するというのは、特別なことじゃないと思うんですよ」

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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