学芸員「初任給21万6100円」安すぎる? 金沢21美で議論も...現役から「高い方」の声、なぜ給与水準が低いのか

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   金沢21世紀美術館で学芸員、特に経験を積んだ中堅層の人材が不足しており補充が追い付かないというニュースに対し、給与が安すぎるからではないかなどとするX(ツイッター)の投稿が話題となっている。金沢21世紀美術館を運営する金沢芸術創造財団(石川県金沢市)が、2023年8月25日時点で公開している求人の初任給は、「新規修士課程修了者の場合」で 21万6100円。この金額は学芸員の初任給として安すぎるのか。一般的な学芸員の給与水準はどの程度なのか。J-CASTニュースは25日、現役学芸員に見解を聞いた。

  • 金沢21世紀美術館
    金沢21世紀美術館
  • 金沢21世紀美術館が募集する求人の初任給(金沢芸術創造財団公式サイトより)
    金沢21世紀美術館が募集する求人の初任給(金沢芸術創造財団公式サイトより)
  • 大学院卒者の初任給の平均(厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より)
    大学院卒者の初任給の平均(厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より)
  • 金沢21世紀美術館
  • 金沢21世紀美術館が募集する求人の初任給(金沢芸術創造財団公式サイトより)
  • 大学院卒者の初任給の平均(厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より)

金沢21世紀美術館の初任給は「高い方」

   現役学芸員として「りんの学芸員ブログ」を運営するりんふぁんさんは、金沢21世紀美術館が提示する21万6100円は「学芸員の初任給としては高い方」という。一般的な学芸員の初任給についてりんふぁんさんは「公立美術館学芸員の給与は、基本的にその地方自治体の公務員と同じ」なので例外としつつ、

「地方の小さな美術館なら正規雇用でも16~18 万円程度だったり、一方で21美(編集部注:金沢21世紀美術館)のような大きな美術館であれば21万円を超えることもあります。中堅層で現場経験豊富でないかぎりは、院卒して数年学芸員補(学芸業務をサポートする非正規雇用)をこなした後でも初任給はMAX24万円程度です」

と説明。学芸員には非正規雇用が多いことも補足した。

「学芸員の多くは任期つきの非正規雇用であることも忘れてはいけません。もちろん収入は正規雇用よりも低く設定されています。昇給やボーナスなどにも大きな差があります。(しかも表向きの雇用形態が異なるだけで、実質の仕事量は正規雇用の学芸員とあまり変わらなかったりするのが実情です。)
非正規の学芸員が多いことも『学芸員=薄給』のイメージに拍車をかけていると思います」

   では金沢21世紀美術館の初任給はどのような基準で決まっているのか。金沢芸術創造財団はJ-CASTニュースの取材に対し「21世紀美術館は、金沢市が設置し、市の予算で運営を行っております。学芸員に限らず、職員の給与は金沢市の給与に関する規程等に準拠し、財団にて算定されます」と回答した。一般的な学芸員の初任給と比較して安いかどうかについては「他施設等の水準が分からないので、お答えすることができません」としている。

「給与が低くてもなりたい人がいる」

   厚生労働省が発表する「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、大学院卒者の初任給の平均は26万7900円。りんふぁんさんが高いとする金沢21世紀美術館の初任給も平均を下回っている。なぜ学芸員の給与水準が低いのか。

「給与が低くてもなりたい人がいるからかと思います。学芸員募集に正規雇用が少なく非正規雇用が目立つのもこのせいかもしれません。非正規であっても学芸員の職につきたい人はかなりいるので、雇用されている側も離職せず職場もそれに甘えてしまっている現状があります」

   りんふぁんさんは、「このような薄給では学生は学芸員を目指せない!」というポストや記事を発信しているのは「労働環境改善を自ら推し進めようとする方や(すでに採用された)現役の学芸員など」だとし、このような意見はありがたいとしつつも、「学芸員を目指している大学院生の声ではありません」という。

「私自身、院生の後輩も多くいますが『給与は低いけど、どうしよう』と迷いつつも結局学芸員の道を選ぶ人は少なくありません。

私も『学芸員を目指す人を応援するブログ』を運営していますが、メジャーな職業でもないのに意外とアクセスがあります。本当に悩んでいる人に少しでも届けばとブログを始めましたが、『学芸員=報われない職業』のイメージが定着した今でも、まだ学芸員を目指す人がこんなにもいるのかと驚いています。(誤解ないよう付け加えておくと、私のブログは『学芸員を目指す』よう"誘導"しているものではありません。諦めるのも一つの手だと書いていますし、給与が安いことも書いています。)

薄給でも結局のところなりたい人はたくさんいる現状ですから、21美の給与は"十分"だとされているのかもしれません」

「氷河期のツケが回ってきているのは確か」

   中堅層の学芸員が不足していることについてりんふぁんさんは、実感としても中堅層の学芸員は少ないとした。

「氷河期のツケが回ってきているのも確かだと思いますよ。40代半ば~50代半ばくらいの学芸員がごっそり抜けているような感覚は確かにあるんです。その世代は今よりもずっと学芸員募集が少なかったという話もよく聞きます。この年代で今も学芸員をしている人は本当に優秀な人が多いです。離職していったというより、そもそも採用が少なかった背景はあると思います」

   りんふぁんさんは学芸員の雇用状況は変わってきているとしつつも、問題点はあるとした。

「2023年現在の学芸員募集はかなり多いです。10年前20年前は『学芸員=募集が少ない、採用されるのが難しい』というイメージがありました。『イメージ』はともかくとして、その現実は今まさに変わりかけているところです。

ご想像の通り『なりたい人は学芸員になれる』といった明るい意味ではありません。大学院まで出て費やした労力ともらえるお金や待遇がそぐわないということに不満を抱く学芸員が多い(=ポストが空く)からです。

問題なのは、『目指す人が少ない』点ではなく『辞める人が増えてきている』という点ではないかと個人的には思っています」

   金沢芸術創造財団は学芸員のなり手不足の原因について、「そもそも人材の絶対数が不足していることも原因にあるかもしれません」と回答した。

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