「水害の夏」ひどくなるばかり 秋田市「内水氾濫」住民も支援者も苦悩

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   この夏、日本各地は豪雨や台風が続発した。しかも、被害が広範囲に及んだ。2023年6月以降に災害救助法が適用された地域は、東北から関東、東海、北陸、近畿、中国、九州、そして沖縄と全国規模だ。

   記録的な暑さとなった7、8月に続き、今月初めも残暑が厳しいという。本格的な台風シーズンは、むしろこれからだ。「防災の日」のきょう9月1日、J-CASTニュースでは7月豪雨で大きな被害を受けた秋田市に注目し、頻発する自然災害について考えてみたい。

  • 秋田市楢山地区に設けられた住民の支援拠点(写真提供:ピースボート災害支援センター)
    秋田市楢山地区に設けられた住民の支援拠点(写真提供:ピースボート災害支援センター)
  • 住民の話に耳を傾ける(写真提供:ピースボート災害支援センター)
    住民の話に耳を傾ける(写真提供:ピースボート災害支援センター)
  • 秋田市で2拠点目を東地区に開設した(写真提供:ピースボート災害支援センター)
    秋田市で2拠点目を東地区に開設した(写真提供:ピースボート災害支援センター)
  • 秋田市楢山地区に設けられた住民の支援拠点(写真提供:ピースボート災害支援センター)
  • 住民の話に耳を傾ける(写真提供:ピースボート災害支援センター)
  • 秋田市で2拠点目を東地区に開設した(写真提供:ピースボート災害支援センター)

被害が判別しにくい

   秋田県では7月14~16日にかけて、記録的な大雨となった。県内各地で河川が氾濫、家屋の浸水や土砂崩れが起き、人的な犠牲も出た。中でも秋田市は、15日夜までに市中心部が広く冠水。テレビニュースでは、JR秋田駅周辺が水没した映像がよく流れたので、記憶している人もいるだろう。

   原因として指摘されているのが、内水氾濫だ。大雨により、下水道や水路の排水が追い付かなくなったり、排水先である河川が増水して水が「行き場」を失ったりして、下水道などから水があふれ出し、市街地で浸水被害が出てしまう。河川が近くにない地域でも、広く冠水する恐れがある。

   2019年10月の台風19号では、東京都と神奈川県の多摩川流域で大きな被害をもたらした。家屋だけでなく鉄道駅が水没したり、マンションで長期間の停電を引き起こしたりと、内水氾濫が注目される事態となった。

   JR秋田駅周辺は大型の商業施設やマンションなどが建ち、少し離れると住宅が密集するエリアだ。家屋への水の被害は、大きい。県災害対策本部が8月29日付で発表した住宅の被害を見ると、秋田市では床上浸水が4314棟、床下浸水が2622棟。ただし、棟数は1週間前の発表よりそれぞれ719棟増、373棟増で、今後も被害認定の増加が予想される。

   現地で支援活動をしている、ピースボート災害支援センター(PBV)事務局長・上島安裕さんに話を聞いた。被災住民の相談拠点として、8月4日に市内の楢山地区、18日に東地区で拠点を開設した。両地区とも、秋田駅から徒歩20分ほどの距離にあり、住宅が建ち並ぶ。

   被害状況の把握は、内水氾濫ならではの難しさがあった。家屋の外観調査では、地震や土砂崩れで損壊した家とは違って、「水に浸かった住居」の被害は目視で判別しにくい。戸や窓を閉め切った家では、なおさら不明だ。被害見込みは相当あったが、実際に報告される1日当たりの確認件数はそこまで多くはなく、支援団体を戸惑わせた。

   被害範囲の広さも、正確に被害を把握するうえで足かせとなった。発災から1か月ほど過ぎてから、「社協(秋田市社会福祉協議会)もリーチしていなかった地域から、(支援してほしい内容の)ニーズが上がってきたのです」と上島さん。関係者は「あそこ、被災していたのか」と驚いたという。

猛暑が復旧活動の足を引っ張る

   PBVが楢山・東の両地区で運営する拠点では、支援物資の配布や資機材の貸し出し、そして被災住民の「困りごと」をヒアリングし、具体的な支援を得られるよう行政につなげている。

   地域にとって今回の水害は、想定をはるかに超えた事態だ。社協は、ボランティアセンターを切り盛りしなければならない。市職員も、被災者が支援金給付や支払い減免といった措置を受けるのに必要となる「り災証明書」の交付をはじめ、事務作業に追われる。住民から丁寧に被災状況を聞き出し、きめ細かく対応するための役割を、PBVのような支援団体が担っているのが現状だ。

   上島さんらが被災者から話を聞くと、いまだに家を片づけていないケースが判明した。特に高齢者が置かれた状況は、深刻だ。こんなケースがあった。

   発災3週間ほどが過ぎた時点で、1人のおばあさんから「片づけが進まない」との話を耳にした。理由は「猛暑」。秋田市では7月23日から、最高気温が連日30度を超えた。8月に入るとさらに高温となり、気象庁発表の最高気温は9日に38.2度、下旬の23日には38.5度まで上昇した。

   浸水した家に、そのまま住むしかない。「手伝いに行きますよ」と上島さんが声をかけても、「いえいえ、大丈夫」と遠慮するばかり。り災証明書の交付に必要な家屋調査が済んでいない事情もあり、家の中をそのままにせざるをえないと話した。2日に1人ほどが、PBVの拠点にこうした相談を持ってくるという。

「わざわざPBVの拠点に来て打ち明けるということは、本当はしんどいだろうなと思います」

   実は支援側にとっても、暑さは強敵だ。家屋の片づけのような重労働では、熱中症の危険がつきまとう。ボランティア参加者は「少しでも長時間、手伝いたい」と活動しているが、異常な高温は命にかかわる。現場でのジレンマが、なかなか解消されない。

   水害は、発災前後は大きく報道される。だが浸水が解消すると、文字通り水が引くようにニュースもなくなっていく。被災住民にとっては、長く険しい生活再建の道が残されているが、世の中の注目は次第に薄れ、支援の意識が向かなくなる恐れもある。秋田市の水害の「その後」について近々現地を取材し、被災の現状を伝える予定だ。

(J-CASTニュース 荻 仁)

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