韓国出身の女性DJ「DJ SODA」さんの性被害を巡り、真偽不明な情報や明らかな誤解をもとにした被害者バッシングが過熱している。
DJ SODAさんの関係企業は誹謗中傷をしているアカウントを追跡しており、法的措置も辞さないと声明を発表している。本人も一部の憶測に反論している(詳報:DJ SODA、J-CAST記者に明かした「本音」 「反日」バッシングへの反論全文)
J-CASTニュースは、ネットリテラシーに詳しい国際大学GLOCOM客員研究員・小木曽健氏に、SNSで心無い書き込みをする人が後を絶たない背景を取材した。
まとめサイトが憎悪煽る不正確発信
大阪で行われた音楽フェス「MUSIC CIRCUS'23」に出演したDJ SODAさんは2023年8月14日、SNSで性被害を訴えた。
騒動以降、まとめサイトやいわゆる暴露系インフルエンサーなどによるDJ SODAさんに関する真偽不明の発信が相次いでいる。
フォロワー11万のツイッター(X)アカウント「ツイッター速報」は、22日に「DJ SODAさん『私は6歳の時にレ○プされた その古傷を日本人がえぐった』」と投稿し、1万2000以上リツイートされた。DJ SODAさんが21日、ツイッターとインスタグラムで、幼少期に受けた性被害について告白したことを受けての投稿だ。
投稿には、「そんな古傷がある人の行動とは思えない」「もう日本入国禁止でいいよ」などと中傷が殺到した。ヘイトスピーチ(憎悪表現)も少なくなかった。
しかしDJ SODAさんは「古傷を日本人がえぐった」旨の発言をしておらず、情報源を曲解したとみられる。
またフォロワー41万のアカウント「進撃のJapan」は、「DJSODAちゃん(日本人には)はじめて触られた。(編注:と言っているが)他の国では結構触られてるみたいですね」とのつぶやきとともに、過去の公演中にDJ SODAさんがセクハラ被害に遭っていたかのようにみえる動画を拡散した。しかし、本人はこれを強く否定している。
バッシング過熱の背景には何が?
著書に『ネットで勝つ情報リテラシー』がある小木曽健氏に25日、不確かな情報をもとにバッシングする人が後を絶たない背景を尋ねた。
小木曽氏はこの問題を分析すると、2つの「殴り合いグループ」が存在していると説明する。1つは「①セクシー売りのタレントがあんな服装で群衆に飛び込めばそうなる、自業自得だろ」と「②いや、どんなキャラ・服装でもそれを理由にした犯罪を受忍する謂れはない」。もう1つは「③だから男はダメなんだ」と「④いや、女だって触っているし、しかも自首していないのは女だろ」。
「上記に『嫌韓勢』と『日本はダメだ、海外では~』の出羽守勢、更には『まとめサイト勢』が加わり、ぐちゃぐちゃになり、その結果一連のバッシングに繋がっている状況です。
そもそも①VS②は『発生背景』と『法令順守』という全く別の議論を混在して議論しています。
また③VS④は『一個人が犯した犯罪』にもかかわらず性別や国籍を軸に議論しています。
だからどちらも着地するはずがなく、メディアはこの状況を交通整理しうる数少ない勢力なので、冷静に分析し、エビデンスに基づいて報じることが重要になります」
小木曽氏は、人間は最初に「信じたい情報」を選び、後からそれを信じる理由や根拠を探す生き物だと定義する。
「認知バイアス」と呼ばれるもので、自分の思い込みや過去の経験などにより、人間が無意識におこなう非合理的な行為だという。
「フィルターバブルやエコーチェンバーと合わせて『そのような特性、現象が存在しており、私たちに影響を及ぼしている』ということを知り、注意することが何より重要になります。逆に知らないと何も始まらないでしょう」
フィルターバブルとは、ネットユーザーの行動履歴がアルゴリズムによって分析されることで、見たい情報ばかり表示され、ユーザーの価値観などに合わない情報には触れづらくなる環境を指す。
エコーチャンバーは、SNS利用時に自分と興味や考え方が似ているユーザーをフォローする結果、コミュニケーションが閉鎖的となり自分の思想が強化されやすい状況をいう。
デマを安易に拡散したり、便乗したりするリスクについては、次のように説明する。
「デマ拡散や誹謗中傷は、その内容が犯罪にあたるもの(殺害予告など)であれば、当然法的なペナルティーを科せられ、営業妨害にあたるもの(売上げの減少や警備の費用増など)であれば、民事裁判で賠償を求められます。未だにこの当たり前の事実を知らずにネットを利用している人が少なくない状況です。またそれらが社会的なコストになることは言うまでもありません」
「ネットの目に見える情報は氷山の一角であり、かつ相当偏っていることを意識する」ことが情報リテラシー醸成となる
SNS上では、DJ SODAさんに同情や共感の声よりも真偽不明な内容や誹謗中傷の方が多く拡散されているように見える。とりわけ日本人は不正確な情報を信じてしまいやすいのか。
小木曽氏は、日本人が相対的にデマを信じやすいというエビデンス(科学的根拠)は存在しないと否定した。欧米でもアジアでも同様の事例は数多く起きているという。
また「同情」「共感」といった感情は「わざわざ投稿しない」人の方が圧倒的に多いと分析する。
「この事実はかなり重要で、ネットの目に見える情報は氷山の一角であり、かつ相当偏っていることを意識する、そのような心構えがフェイクニュースに対抗しうる情報リテラシーの醸成に繋がります」
X社は7月末、インプレッション(表示回数)を多く集める投稿などをした利用者に広告収益を分配する「クリエイター広告収益配分プログラム」を始めた。導入によって、フェイクニュースがますます横行する恐れはないのか。
「いわゆるまとめサイトは、タイトルにフェイク要素を意図的に織り込むみがちなので、その傾向をよく理解して接する必要があります。X社による投稿の『収益化』は、この傾向(適当な情報を書いてビューを稼ぐ)を一時的には助長すると思われますが、まとめサイトにせよ暴露系にせよ、すでに収益化が成立している領域であり、あの程度の金額ではそこまで大きな変化は起こせないと思います(まとめや暴露系ではもっと多額のお金が動いている)。また最近始まったコミュニティノート(誤解を招く恐れのあるツイートにユーザーが背景情報を提供する施策)が思いのほか機能しているので、『X』の収益化は、デマ業界への『新規参入』を促すまでには至らないでしょう。今まで通り、デマを書く人は書くだろうね、というくらいの認識です」(小木曽氏)
デマや誹謗中傷への向き合い方、情報リテラシーの高め方については「人間の性質や情報の特性から見て、今後も、デマや誹謗中傷の問題は起き続けるはず」とし、重要なポイントに(1)自分は騙されるかもしれない、という意識(自分は大丈夫だと考える人間は騙され、拡散しがち)(2)誹謗中傷の被害者に対する適切なケアの仕組み(中傷は少数派のノイジーマイノリティであることの理解促進と、心理的ケアの併用)――の2点挙げた。
日本の大阪ミュージックサーカスフェスティバルで公演を終えましたがその時に凄く悲しい出来事がありました。
— djsoda (@dj_soda_) August 14, 2023
ファンの方々ともっと近くで楽しんでもらうために、
私が公演の最後の部分でいつものようにファンの方々に近づいた時、
数人が突然私の胸を触ってくるというセクハラを受けました。 pic.twitter.com/fuidZ0sliD