けがしたのに...なぜ人身事故でなく物件事故にされる? 弁護士が指摘する「警察のメリット」と対策法

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   子どもが車にはねられてけがをしたのに、警察に物損事故(物件事故)扱いにされそうになったというニュースに対し、似たような経験があるとしたツイッター(現・X)の投稿が話題になった。この投稿にも、同様の経験があるとのコメントが寄せられている。なぜ物件事故扱いにするのか。警察のメリットはあるのか。J-CASTニュースは2023年8月18日、弁護士法人リーガルプラス市川法律事務所(千葉県市川市)の小林貴行弁護士に話を聞いた。

  • 事故と警察のイメージ
    事故と警察のイメージ
  • 2020年度の自賠責保険の支払い件数(損害保険料率算出機構『統計集』より、赤枠は編集部加工)
    2020年度の自賠責保険の支払い件数(損害保険料率算出機構『統計集』より、赤枠は編集部加工)
  • 2020年の交通事故による負傷者数(警察庁『交通事故統計』より、赤枠は編集部加工)
    2020年の交通事故による負傷者数(警察庁『交通事故統計』より、赤枠は編集部加工)
  • 事故と警察のイメージ
  • 2020年度の自賠責保険の支払い件数(損害保険料率算出機構『統計集』より、赤枠は編集部加工)
  • 2020年の交通事故による負傷者数(警察庁『交通事故統計』より、赤枠は編集部加工)

人身事故は警察の手続きが複雑

   そもそも人身事故と物件事故の違いは何なのか。小林弁護士は、

「人身事故は、警察に『人が怪我をしました』という形で届けられた事故のことです。一方で、物件事故は、人が怪我したかどうかを問わず、単に事故がありましたという届け出だけがされており、人身事故の届け出はされていない事故です」

と言い、物件事故扱いになっているからといって現実に誰も怪我をしていないと決まっているわけではないとした。自動車運転中に人身事故を起こすことは過失運転致傷罪にあたる行為であり、人身事故の届け出をするということは、

「過失運転致傷罪という犯罪が起きたので、犯罪捜査をしてくださいというお願いになります。つまり、場合によっては(警察は)検察に送って、検察官がさらに捜査を深め、加害者への刑事罰を求めて刑事裁判を起こす可能性もでてきます」

とし、そのため人身事故として届け出られた場合は、刑事裁判の可能性に向けた証拠収集として、現場検証や実況見分調書の作成、加害者や被害者の取り調べなどが必要になってくると説明した。物件事故については「『物件事故報告書』という名前の比較的簡単な書類だけ作成して終わる運用が多いようです」という。

   このような人身事故の手続きの複雑さから、

「比較的軽微な事故であれば、警察官としても早く処理できる方(物件事故扱い)に流そうとしてしまうことはあると思います」

とする一方で、今回のニュースやツイッターの投稿のように警察から物件事故を勧められてトラブルとなるケースは多いという。

「私自身も交通事故を取り扱っていますが、比較的軽微な事故では、被害者としては加害者に対する処罰感情が強く、人身事故扱いを希望しているにもかかわらず、警察に受け付けを抵抗されて不満を持つ方はそれなりにいます。ただ、ニュースにあるような骨折にまで至っている大きな事故では珍しいです」

人身事故で届け出ることによる被害者側のメリットは

   被害者側にとって、人身事故扱いにした方が補償の面で有利になるのかというと、小林弁護士は必ずしもそうではないと言う。

「交通事故による自賠責保険の支払い件数は2020年度で約84万件あります(損害保険料率算出機構『統計集』より)。これが実際に交通事故にあってけがをした人数だと考えられます。一方で、警察に対して届けられているけが人の数は2020年で37万人程度(警察庁『交通事故統計』より)。実は人身事故として届け出ている被害者は少数派です。だからといって、人身事故の届け出をしなかった被害者が自動車保険などからの補償の面で常に著しい不利益を被っているかいうと、必ずしもそうでないと思います」

   では、人身事故として届け出たほうが良いのはどのような場合か。

「まずは、被害者として加害者に対する処罰の意思が強い場合は、人身事故として届け出た方が良いでしょう。また、過失の割合がわかりにくい事故や、どちらが加害者となるのか難しい場合においては、証拠が残っていないために賠償されるべきものが賠償されなかったということにならないためにも、しっかりと警察に調べてもらって、証拠となる記録を作ってもらうという意味で、人身事故の届け出をした方が良いケースはあります」

人身事故扱いで受け付けてもらえない場合は弁護士から医師の診断書を提出

   今回のニュースやツイッターでの投稿のように、人身事故の届け出を希望しているにもかかわらず警察から物件事故として処理されそうになった場合の対応方法としては、弁護士と一緒に警察署へ行くことを勧める。

「1番おすすめするのは弁護士と一緒に警察署に行くことです。被害者が一人で警察署に出向いて人身事故扱いにしたいと申し出ても、警察官から『加害者と一緒に来ないと受け付けない』などと言われることも多いです。被害者と加害者が同時に立ち会うことで、実況見分が1回で済むからです。ただ、実際には加害者と揉めているのに『じゃあ今から一緒に警察へ行きましょう』と言うのは難しいので、人身事故届け出の『水際作戦』として機能してしまっているところがあると思います。しかし、弁護士と一緒であれば『人身事故扱いはできません』と言われるようなことは多くないでしょう」

   事故から日が経ってない時期であれば、医師からの診断書も対策法として有効だという。

「事故から1~2週間以内であれば、病院の診断書を持っていくことも有効という印象です。日が経った後だと、警察としても捜査できることが限られてしまいますし、今更感が出てきてしまうので、抵抗が強くなってしまう傾向はあります。事故から何か月か経った後に相手やその保険会社と示談で揉めて、『じゃあ人身扱いにするぞ』と言って警察に行くと『え、今更ですか』みたいに警察官に言われて人身事故の届け出を抵抗されるのはよくあるパターンです。早めに病院の診断書を取って、早めに警察署に持って行く。これで拒否されることはあまりないです。ただそれでも『加害者と一緒に来てくれないと』と警察官に言われることもあるので、1番良いのはやっぱり弁護士と一緒に警察署に行くことかなと思いますね」

   ツイッターの投稿によると「告訴状が有効」との言及もあったが、これについては、

「一般の方が作成される告訴状は、法律が定める告訴状の様式を整えていないことが多く、また、仮に整えていたとしても警察は一般の方の告訴状を受理しない場合も多いです。そもそも告訴状を受理しない対応が許されるかどうかは議論があるところですが、実務としてはそうなっています。経験的にはそれより、弁護士から医師の診断書を提出した方が、動いてくれる確率は高い印象です。警察も犯罪として立件するからには明確な証拠がないと(動きづらい)という側面もありますから」

と、告訴状よりも診断書が重要だとした。

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