関東大震災の発災から5日後に起きた虐殺事件をモチーフにした劇映画「福田村事件」(2023年9月1日公開)の試写会が8月21日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で行われ、森達也監督(67)と、作品に出演した俳優の木竜麻生さん(29)が記者会見した。
森監督は、日本人の集団性の高さと「個」の弱さを指摘。メディアの機能不全も背景に、事件が起きる温床は「全く今も同じ状況」だと話した。
「集団」「不安と恐怖」の2つがそろうと人は変わる
モチーフになった虐殺事件は、地震から5日後の1923年9月6日に千葉県東葛飾郡福田村(現野田市)で発生。自警団や村人が、香川から訪れた被差別部落出身の薬売りの行商団を「朝鮮人だ」と決めつけ、幼児や妊婦を含む9人を殺害した。
今回の作品は、「A」「A2」「FAKE」などのドキュメンタリーで知られる森監督が初めて臨んだ劇映画だ。森監督は、福田村事件を題材に選んだ理由を次のように語った。
「『集団』、そして『不安と恐怖』。この2つが揃ったときに、人は変わってしまう。1人1人は同じままでも、集団として変わってしまう。特に日本は、そういう歴史をずっと繰り返してきている。でも、その歴史を最近、軽視する傾向がとても強くなった。であれば、映画でちゃんとそれを見せるしかないと思った」
メディアの機能不全も描かれる。木竜さん演じる地元紙の新人記者・恩田楓は、福田村事件に先だって起きた朝鮮人殺害事案を報じようとして上司に拒まれ、強く反発する。終盤には、この事案を報じなかったことが福田村事件の遠因になったとして悔やむ場面もある。
森監督によると、出稿を拒んだ上司は、以前は「反権力・リベラルな新聞社」に在籍していたが、「結局部数がどんどん落ちて、政府から弾圧されて、最後は解散してしまった」という設定だ。そのため、上司は
「もちろん、ジャーナリスティックな気持ちを持っているが、それをなかなかできない。それをやってしまうと、自分だけではない、社員たち全員が、家族も含めて生活できなくなる」
というジレンマに立たされる。この設定の狙いを次のように解説した。
「これは今のメディアの問題と、多分とても近いはずだ。結局は部数、あるいは視聴率を優先してしまう。しょうがない。しょうがないけれども、それで本当にいいんだろうかと悩む記者、ディレクターを出したかった。それは多分、今と全く同じだと思う」