外出自粛中16万字の小説執筆→2作目でデビュー&重版 「冗談みたいなペースでここまで来た」コロナ禍が生んだ作家の素顔

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   在宅勤務をきっかけに筆を執った友人が16万字の小説を書き上げた――SNSでの紹介が大きなインパクトを与えた新人作家・三日市零(みっかいちれい)さんが、宝島社からデビューした。

   三日市さんは会社員で、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う外出自粛で浮いた時間を執筆活動に充てていた。2作目となる「復讐は合法的に」が、同社主催の『このミステリーがすごい!』大賞の編集部推薦枠「隠し玉」に選ばれ、書籍化を果たし重版も決定した。

   なぜ未経験だった小説の執筆に夢中になったのか。J-CASTニュースは2023年8月1日、三日市さんのデビューのいきさつを宝島社でインタビューした。

(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

  • コロナ禍をきっかけに始めた執筆活動でデビューした三日市零さん
    コロナ禍をきっかけに始めた執筆活動でデビューした三日市零さん
  • 「復讐は合法的に」
    「復讐は合法的に」
  • 趣味は「謎解き」。自作したもの。
    趣味は「謎解き」。自作したもの。
  • コロナ禍をきっかけに始めた執筆活動でデビューした三日市零さん
  • 「復讐は合法的に」
  • 趣味は「謎解き」。自作したもの。

「誰かに見せるわけでもなく一人で書き続けていた」16万字超の小説

   三日市さんの執筆活動に注目が集まったきっかけは、高校から付き合いのある友人・二個さん(ハンドルネーム)によるツイッター(現X)での紹介だった。

「友達、非オタで創作とか一切やってなかったんだけど、『コロナ在宅勤務で暇だから推理小説書いてる』っていってへ~っておもってたんだけど、いま16万字書いたらしい......は......???? 初めての小説で......??????? 人は2人位死ぬらしい」

   この投稿は、1万6000件超のリツイート7万5000件超件の「いいね」が寄せられるなど大きな反響があり、「そんなに書けるとか羨ましいなぁ」「相当な好きじゃないとなかなか無理ですね」などと驚きの声が広がった。仕事の合間の暇つぶしに書いたとする小説でデビューした人気作家・京極夏彦さんに例える声もあった。

   取材に対し二個さんは、三日市さんから相談を受けた当時を、書面で次のように伝える。

二個さん「三日市さんが小説を書き始めたと聞いた時は、特に驚きはせず歓迎しました!
ただ『まずは小説を完成させることが大事だよ!』と先輩風を吹かそうと思っていたのですが、よくよく聞いてみたら16万字も書き上げていた上での文章表現の相談だったのでそこは本当に驚きました...笑」

   二個さんの趣味は同人活動で、小説を書いていた。

二個さん「創作は『表現したいこと』があって、それを表現すること自体が、難しいですけど尊い趣味だなと思っています。その時点では内容を読ませてはもらってなかったんですが、16万字は好きでも書き上げるのが大変な量ですし、それ以上に三日市さんの中に書きたい大きな物語が存在し、それを誰かに見せるわけでもなく一人で書き続けていたこと自体が素敵なことだと感じました」

   二個さんは、三日市さんのデビューを受けて「初手16万字の非オタの友達」「在宅勤務が生んだ成鳥モンスター」などのあだ名をつけている。

   本人はこうした反響をどのように受け止めているのか。取材に対し三日市さんは、「自分の好きな要素を詰め込んでいたら16万字に達してしまった」と振り返り、SNSでの反響がピンとこない様子だ。

   三日市さんは、自身を「オタク寄り」の人間だと称する。ただし同人活動やSNS発信については疎く、執筆をはじめとする創作活動に取り組んだことはなかったという。二個さんが小説を書いていたことは以前から耳にしており、執筆の相談をしたことで、先述のツイートが生まれた。

気づいたら4万字越えの「メモ」が出来上がっていた

――三日市さんのプロフィールをお聞かせください。

三日市さん:1987年生まれで今年36歳になります。趣味は、旅行、読書、謎解きなどです。コロナ前の休日は年に1、2回は海外旅行に行っていました。謎解きについては、家で解くパズルは好きですし、休日は「リアル脱出ゲーム」に出かけることも多かったです。

――謎解きが趣味とのことですが、推理小説にご興味は。

三日市さん:本格的に読み始めたのはコロナ禍になってからです。以前は、シャーロック・ホームズといった著名な作品も、漫画やドラマであらすじを知っている程度で、原典の小説にはほとんど触れてきませんでした。推理小説で読んでいたのは、ドラマで見ていた東野圭吾さんの「ガリレオ」シリーズぐらいだと思います。

――なぜ推理小説に興味を持ち、自らも執筆するようになったのでしょうか。

三日市さん:2020年にコロナが流行り始め、仕事はリモートワークになり、旅行にも行けなくなってしまいました。謎解きイベントも軒並み中止になり、家でできる趣味が欲しいと感じ、読書を始めました。20代のころはビジネス書を中心に読んでいましたが、ネットのレビューを参考に、ある推理小説を読んでみることにしました。
それは「叙述トリック」を用いた小説で、「記憶を消して読みたい本ランキング」などに入る有名作でした。叙述トリックは、読者の先入観や思い込みを利用してミスリードを誘い、オチですべてが分かる仕組みになっています。そのためにネット上にはネタバレが一切なく、逆に興味を持って読み進められました。
読み終えて「やられた!」「おもしろい!」と感じ、すっかり推理小説に夢中になってしまいました。ハマり始めてから半年ほど経ったころ、自分でも書いてみたいと思うようになりました。どうせなら好きなものについて書きたかったので、「脱出ゲーム」をテーマにしようと思い、スマホにアイデアをメモし始めました。

――どんなメモを取っていたのですか。

三日市さん:メモはほとんど台詞で作っていました。書きたかった作品は少し特殊で、主人公たちが作中で解く謎に読者も挑戦でき、その答えを使うと小説内の事件の謎も解ける、という形式のものです。台詞と簡単な描写をひたすら頭から書きつつ、並行して謎解き問題も作成するような感じでした。最初から最後まで流れができた頃にはメモが4万字ほどになっていたので、21年の年明けごろからパソコンに移して本格的に書き始めました。

――執筆活動は「在宅勤務で暇だから」始めたとのことですが、ご職業は。

三日市さん:通信業の営業企画です。仕事が終わったら社用パソコンを閉じて、小説用パソコンを開いて...。決して業務中に執筆していたわけではありません!誤解がありそうなので、ここは強調させてください。
実際、慣れた仕事でしたし、クリエイティブ系でもないので、頭の切り替えはしやすかったです。
執筆はリモートワーク時の平日であれば夕食を終えて21時ごろから2~3時間。書き出した台詞の間の描写を埋めていく作業が中心です。休日は、締め切りが迫った際には5~6時間ほど書いていたと思います。

「いつか何かをやり遂げるやつだと思っていた」友人とのエピソード

   デビュー作「復讐は合法的に」(応募時の『ゴールデンアップル』から改題)は、弁護士資格と法律知識を活かして「合法復讐屋」を営むエリスを中心とする物語だ。帯ではエリスの次のセリフが紹介されている。

「本当に覚悟はあるの?うちが提供してるサービスって――
法律の範囲内だけど、道徳の範囲外よ?」

――物語の発案のきっかけになった物事はありますか?

三日市さん:第1話は、6年付き合った彼氏に手酷く裏切られたOL・麻友の復讐が主題です。現実に見聞きした話をもとに書いているので、正直、友人らには勧めにくいですね。もちろん元カレ側の悪行はかなり盛っていますが...。この酷い男を始末する方法はないかと考えた結果、エリスのキャラが生まれました。
多くの復讐ものはバイオレンスに寄りがちです。すっきりはするけど、読んでいて疲れることもあります。少女漫画でよくある「もっと良い人と結ばれる」という展開も、根本的な解決にはならない。そこで、復讐の方法を知略に寄せて軽やかな展開になるよう工夫しました。

――謎解きの趣味は執筆に繋がりましたか。

三日市さん:文章を書いた経験は特にありませんでしたが、推理小説はトリックなど謎の設定が大事ですし、文体も作家によって様々です。謎がきちんとしていれば書けるのではないかと考えました。ただ、いきなり書き始めるのもハードルが高かったので、まずはメモから始めました。
私自身も謎解きを作るのが好きだったので、その延長だったと思います。実は二個さんの誕生日に、自作の謎解きを用意したこともあります。一応、言い訳すると二個さんも謎解きが好きなので、無理やりではないです。天気が悪かったため雨の中、上野公園を歩き回らせることになってしまいましたが...。

――二個さんに執筆活動を相談されたきっかけは。

三日市さん:書き始めたころはハイテンションになっていたので、週末の睡眠時間を削りながら執筆を続けていました。これは良くない、働きながら執筆を続けるにはどうしたらいいのかと、相談しました。
小説の内容を相談することはありませんでしたが、選考が進んで心が浮き沈みした時には、電話などで励ましてもらっていました。二個はとてもいいやつです。仕事はできるし社交性もあるし頭の回転も速い。現実的なアドバイスをくれるし、執筆については同人の経験から面白い話を聞かせてくれました。

   二個さんは三日市さんについて、頭の回転と記憶力が良く、凝り性な気質もあるとして、次のようなエピソードを伝える。

二個さん「若いころ一緒にイタリア・フランス旅行をした時、三日市さんが美術史に凝っていたのと『ダ・ヴィンチ・コード』を観たばかりだったので、行ける範囲のすべての美術館と聖地の場所をピックアップしていました。導線をととのえ分刻みのタイムスケジュールを組んでくれたんですが、単に美味しいご飯を食べたいだけの私とはケンカになってしまいました...笑」

   三日市さんのデビューについては、次のように受け止めた。

二個さん「『ついに来たか!』と思いました。初手16万字から2年半ですごい!
長い付き合いなので『いつか何かをやり遂げるやつだ』と思っていたので、実際に発売になると聴いた時は驚きよりも妙な納得感がありました。
最初のツイートでは友人はもちろん、知らない方から優しいコメントをいただいて、それが繋がって、頑張れて、作家にまでなってしまう...人生っておもしろいことが起こるんだなあと感じています。
内容もプロトタイプから読んでいましたが、宝島社の編集さんと二人三脚でパワーアップした内容で、純粋に楽しませてもらいました!
プロとなると苦労やプレッシャーは想像もつかないですが、初手16万字を書き上げたあの火の玉のようなモチベと楽しさをずっと忘れないで活躍してほしいです!」

出社再開後も執筆は「続ける」

――現在はリモートワークが解除され、出社しているとのことですが、執筆活動は続けますか。

三日市さん:在宅勤務でなくなったことで体力的にきついと感じることはありますが、以前のように計画性なく取り組むことなく、スケジュールを立てて執筆活動に取り組めるようになりました。二個さんのアドバイスのおかげです。もちろん予定通りに進まないこともありますが、地道に書き続けて16万字に達したこともありましたし、楽観的に捉えています。

――「復讐は合法的に」発売のご感想をお聞かせください。

三日市さん:いろいろな感情が押し寄せていますが、『本当に本を出してしまったな』という感想が大きいです。凄く嬉しいんですが、いまいち現実感がありません。3年前の自分に『将来作家になるよ』と言っても、信じてもらえないと思います。運に恵まれて、冗談みたいなペースでここまで来たので、まだまだビギナーズラックの渦中にいる気もしています。

――「復讐は合法的に」のエリスたちの続編を望む声もあります。

三日市さん:続編は検討中です。今後、執筆活動の壁に当たることもありそうですが、「復讐は合法的に」は話もキャラも書いていて楽しかったので、なるべく早く次回作を書きたいですね。16万字の文量を話題にしてもらった1作目も、なんらかの形で出したいです。

――改めて読者の方々にお伝えしたいことはありますか。

三日市さん: 駆け出しの新米作家ですが、皆さんに楽しんでもらえるような作品を書いていきたいと思っています。応援よろしくお願いします!
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