強まる親への「責任の押し付け」
プレッシャーの背景には、「家族主義」の過度な内面化もあるという。
23年4月新設の「こども家庭庁」が、報道によれば「子どもは家庭を基盤に成長する。家庭の子育てを支えることは子どもの健やかな成長を保障するのに不可欠」との理由で「こども庁」から名称変更した一件に触れ、「私たちは家族というものに対してあまりにも期待しすぎです。日本では家族主義がとても強まっている」と警鐘を鳴らす。
「社会が親に何でもかんでも抱え込ませるから、しんどいんです。この価値観をまず変えないといけない。『すべてが親の責任じゃないでしょ』ということです。これは社会の問題でもあります。あまりにも多くを家庭に押し付けすぎです」
「『地域社会』があった時には、しつけや教育といった外でも抱えられたものが、今は全部親に抱え込まれていく。そこで親の責任が問われる。同時にSNS社会ですので、他人の振る舞いがとても見えやすい(ので、息苦しさを感じやすい)」
家族主義の絶対視は少子化にも拍車をかけるとし、「『少子化を防ぐには家族の大切さが理解されるのが重要』だと言われていますが、逆効果ではないでしょうか。そう言われるほど負担感が大きくなってしまい、『子どもなんか持てないよ』と逆にハードルが上がってしまう。それが実際に子どもを持たない選択につながっているのでは」と弊害に言及した。
土井氏は、「あまりにも親の負担が大きすぎて、その構造を変えなければならないのに構造を変えずに親を責める言葉が『親ガチャ』になってしまっている。格差が広がる中で、厳しい現実にいる人たちに対して非難する言葉として使うのではなく、『社会を変えたい』『親ガチャのない社会を作らないといけない』といったきっかけのためにむしろこの言葉は使った方がいい」と提案する。
「今の社会で、80年代のように経済成長が著しく未来が明るいなんてことはありえないです。ただ、格差というのは差の問題ですから、これは制度によって変えられるわけです。全体のパイは広がらないけども、配分は変えられる」。