「エンターテイメントがビジネスライクで上手くいくわけない」
コミュニケーションの重要性も話し合われた。作品数が増えたことで人手不足に陥っており、十分な後進育成が行われていないという。
アニメ「HUNTER×HUNTER」の監督を務めたことなどで知られる神志那弘志さんは、社内で十分な育成を終える前の新人が、手が足りない外部の制作会社で大役を任され、トラブルとなってしまうことがあると述べる。新人が修行を積む期間に収入が少ないのも問題であるとして、業界で新人を育てる場所を検討しなければならないと訴える。さらにリモートワークが広まり、人となりを知らないまま指導すると、十分なフォローができないという。
水島さんも、多数のスタッフで成り立つアニメ制作にはコミュニケーションが必要だと訴える。「ビジネスライクに行きましょうって話す人もいるんですが、エンターテイメントがビジネスライクで上手くいくわけないじゃないですか」などと訴える。
植田さんは「頑張った結果がいいビジネスになる」と話す。そう確信したのは、アニメ「機動戦士ガンダム」での経験だ。当時は斬新だったヒューマンドラマ路線で始まり、初期はなかなか人気が出なかった。
「僕だって最初はあの不思議なストーリーをよくわかっていなかったし、なんでこんな小難しいセリフを十何歳のブライト艦長が喋るんだとかね。最初は認められなかったわけじゃないですか。
でも作ってる人たちは新しいものにチャレンジして出そうっていう意欲がすごくて、その熱気が打ち切りになってもめげずに、劇場まで持って行ったんです。それは『ビジネスだから』じゃできないんですよ」
「プリキュア」シリーズの演出や「キューティーハニーF」のシリーズディレクターなどで知られる佐々木憲世さんは、かつてはすべての工程のスタッフが1つの部屋に集って話し合っていたと述べる。指示が分かりづらいなどと喧嘩になりながらも、一つの作品に対し一丸となって取り組む環境があった。現在は多忙なスケジュールから流れ作業のようになっており、指示が出しっぱなしとなることもあると漏らす。
「宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち」演出や「劇場版マクロス△絶対live!!!!!!」副監督などで知られるヤマトナオミチさんは、最近携わった作品で直接会えたスタッフは限られていると明かす。意思の疎通がうまくいかなければスタッフ同士も不完全燃焼になるとして、「プロジェクトを設計する意図は、プロジェクトを箱というレベルで考えてほしい」と円滑なコミュニケーションを行えるチーム作りを呼びかけた。
イベントには業界関係者やファンが約100人来場し、「興味深かった。有名な人だけでなく業界全体の内情をヒアリングして欲しい」という声もあった。
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)