子どもの療育を受けるのに必要な「受給者証」の取得を自治体に相談したところ「誰から聞いたのか」と言われたという旨の投稿が、ツイッター(現・X)上で話題となった。自治体が受給者証の存在をあまり明かしたくないような発言をしたことが本当だとすれば、その理由は何なのか。受給者証の取得などのサポートを行う弁護士法人AURA(東京都港区)に話を聞いた。
受給者証とは
投稿者は自身の子どもが小さかった頃の話だとし、ママ友の話から受給者証の存在を知り、自治体に相談したところ「誰から聞いたのか」と言われたとしている。
これに対し、「療育手帳も誰も教えてくれなかった」「自治体によって対応が違うのホント勘弁」などの声が寄せられた。
受給者証(通所受給者証)とは、放課後等デイサービスなど児童福祉法に基づいた通所型の福祉サービスを受けるために必要な証明書で、自治体から交付される。自治体により異なるが、医師などの専門家に福祉サービス利用の必要性を認められることが交付の条件となる。
AURAによると、特に人口の集中する地域では審査や手続きに時間がかかりやすく、申請者やその家族の状況により必要な書類や情報が異なる場合もあるとするが、
「全体的な基準や法律に基づいて受給者証の取得条件が定められており、自治体はそれに則って運用しています。地域による差異があるものの、公平性と透明性を確保するために基準は一定のルールに基づいています。受給者証取得に際しては、自治体のホームページや福祉事務所などで詳細な情報を確認することが大切です」
という。
「誰から聞いたのか」は状況把握の可能性が高い
AURAは、自治体は①公的サービス利用状況、②生活状況とニーズ、③サービスの適正性を把握する必要があるとし、そのため福祉サービスについて誰から聞いたのかを確認した可能性があるという。それぞれを把握する理由については次のように説明した。
①公的サービス利用状況
「申請者が既に利用している公的サービスや福祉制度を把握することで、重複したサービスの受給を防ぐことができます。また、既に利用しているサービスと受給者証によるサービスとの連携やその補完的サービスの提供を検討することができます」
②生活状況とニーズ
「申請者の家族構成や世帯収入、健康状態などを把握することで、現在の生活状況と必要なサービスのニーズを理解できます。これにより、申請者に適切な福祉サービスを提供するための基礎情報となります」
③サービスの適正性
「申請者が求めているサービスが、受給者証によるサービスで適切なものであるかを判断するためにも、生活状況やニーズを把握することが重要です。申請者の要望と受給者証によるサービスの対応が適合しているかを検討することで、サービス提供が可能となります」
福祉サービスの相談窓口は慎重な対応が必要
さらにAURAは、福祉サービスの相談を受け付ける担当者は慎重な対応が求められるとし、すぐに受給者証の案内をせずに念入りに確認した結果、齟齬が生まれてしまったのではとした。慎重な対応が必要な理由として、AURAは①個別の状況への理解、②想いや感情の尊重、③適切なサポート、④信頼関係の構築が重要であるためだと説明した。
①個別の状況への理解
「障がいといっても、その原因や程度は個々に異なります。相談に来る方々の家庭環境、子どもの状況、障がいの種類などは多岐にわたります。そのため、相談に来た方々の状況を深く理解し、適切なアプローチをすることが重要です」
②想いや感情の尊重
「親御様は子どもの障がいや療育に対して、さまざまな想いや感情を抱いています。その中には不安や悩み、戸惑いが含まれることもあります。慎重な対応が求められるのは、相手の感情を軽視せず、尊重し理解する姿勢が重要だからです」
③適切なサポート
「状況によって必要なサポートやアドバイスが異なります。一律に対応するのではなく、個々のニーズに応じて適切なサポートを提供するためにも、慎重な対応が必要です」
④信頼関係の構築
「家族は子どもの福祉に関して特に敏感で、専門家やサービス提供者に対して信頼を持ちたいと考えています。慎重な対応が求められる理由は、信頼関係を築くことが持続的な支援にとって重要だからです」
福祉サービスの問題点は申請主義
投稿へのコメントには「福祉サービスについて自治体が教えてくれなかった」という声も多く寄せられている。AURAは「受給者証や福祉サービスは申請主義が一般的」だとし、
「福祉サービスの申請主義では、情報や理解に差異が生じることがあります。当事者や行政職員、福祉従事者などが持つ知識や解釈により、サービスの認知や提供にばらつきが生じることがあります。その結果、必要な支援が得られなかったり、適切なサービスが受けられないことがあります」
と説明した。相談に訪れる人は各種健診や医療機関、保育園や学校、友人、知人の紹介、インターネットで知ることが多いという。AURAは具体的な問題点を4つ挙げた。
①情報の提供と啓発活動
「利用者が自ら福祉サービスの申請を行う必要がありますが、情報が不足している場合や利用者自身がその必要性に気づかない場合もあります。行政や福祉施設は、情報の提供や啓発活動を強化し、潜在的な利用者に対しても適切なサービスの存在を知らせることが重要です」
②柔軟な対応と個別性の尊重
「申請主義では一律の手続きが求められることがありますが、利用者のニーズや状況は一人ひとり異なります。行政や福祉施設は柔軟な対応を心掛け、利用者の個別性を尊重したサービスを提供する必要があります」
③第三者の支援や相談機関の整備
「利用者が個人で申請を行うことが求められるため、その手続きや判断に不安を感じることがあるかもしれません。そのような場合には、第三者の支援や相談機関を設けることで、利用者が適切なサポートを受けられる環境を整備することが重要です」
④データの活用と評価
「申請主義においても、利用者の申請や受給状況などのデータを収集・分析することで、福祉サービスの効果や問題点を把握し、政策改善に活かすことが重要です」
一方で「申請主義ではないアプローチにおいては、個人情報管理がより厳格になることに疑問を感じています。マイナンバーや個人情報の利用は、自分らしい生き方に対してプライバシーや個別性を損なわないかという懸念があります」と、行政の個人情報管理に課題がある可能性に触れた。
受給者証取得の相談にはどのような人が訪れるのか
AURAは受給者証を取得するための申請手続きや必要な書類の提出など一連のプロセスのサポートや、個々の依頼者の状況やニーズに合わせた福祉サービスのセルフプランを申請者と共に立案をしている。受給者証の申請相談に訪れる人はどのような人が多いのか。AURAはよくあるケースとして3つを挙げて説明した。
①発達が遅れていると感じているが、保育園や幼稚園などへの入園がうまくいかない
「一部の子どもは、発話や目線の合わせ方、コミュニケーション能力などに遅れを感じる場合があります。そのような子どもたちの親御さんは、各入園手続き(保活)において困難を経験することがあります」
②保育園や幼稚園、小学校への入学などを機に、周囲との差を感じ、療育を勧められる
「新しい環境への変化や新たな学校での生活によって、子どもの発達や行動の特徴が目立つ場合があります。このようなタイミングで、教員や周囲から療育が必要とされるアドバイスを受けることがあります。親御さんは、子どもの成長に対して適切な対応を模索し、専門家との相談を通じて子どもに適した支援を求めることがあります」
③子ども自身の生きづらさに気がつく
「親御さんは、子ども自身の生きづらさや行動の変化に敏感に気づくことがあります。子どもの困難を理解し、家庭内でのサポートを模索する一方で、専門家との相談を通じてより専門的な支援を求めることもあります。例えば、不登校やいじめのきっかけとなっているケースもあります」