YOASOBI「アイドル」ヒットの裏にUGC? 二次創作を下支え、米津玄師も使う「ピアプロ」の功績

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   音楽ユニット・YOASOBIの「アイドル」は今や世界中の人々に聞かれている。人気アニメ「【推しの子】」の主題歌であったことや、楽曲そのものの魅力に加え、ファンが投稿したコンテンツも人気を後押しした。

   現在、このようなユーザー生成コンテンツ「UGC(User Generated Content)」が勢いを強めている。音楽シーンにおいては、ファンが楽曲をカバーする「歌ってみた」や、ダンスを組み合わせた「踊ってみた」が盛んに行われている。その分野で活躍する人々は「歌い手」、「踊り手」などと呼ばれ、ニコニコ動画やYouTubeなどで親しまれてきた。

   こうしたファン活動が盛り上がった一因として、コンテンツ投稿サイト「ピアプロ」が注目されている。J-CASTニュース編集部は2023年7月17日、クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事で弁護士の水野祐さんに、「ピアプロ」が築いた二次創作文化について取材した。

  • YOASOBIヒットの背景にピアプロ?(画像はYOASOBI「アイドル」配信ジャケット)
    YOASOBIヒットの背景にピアプロ?(画像はYOASOBI「アイドル」配信ジャケット)
  • YOASOBIヒットの背景にピアプロ?(画像はYOASOBI「アイドル」配信ジャケット)

YOASOBIは「歌ってみた」「踊ってみた」コミュニティーを意識した?

   現在、音楽業界はUGCに大きく注目している。音楽チャート・Billboard(ビルボード)は20年12月からUGCランキングを公開している。音楽配信サービス・Spotify(スポティファイ)もバイラルチャートというSNSやメッセージアプリでシェア・再生された回数をベースにしたランキングを用いるなど、リスナーの口コミを含むUGCに着目している。6月に行った取材では、音楽企画推進統括を担当する芦澤紀子さんが、「一般のユーザーの投稿の影響も見過ごせない」などと語っている。リスナーによってアニメのワンシーンを想起させる内容とともに拡散された楽曲が、海外で人気を博することもあった。

   しかし多くの「歌ってみた」や「踊ってみた」は、リスナーによる二次創作であり、著作権者の許諾を得ずに作成されたコンテンツも多い。

   「踊ってみた」については、多くのUGCサービスが著作権等管理団体・JASRACと利用許諾契約を締結したことで、原曲を用いることが容易になった。例えばYouTubeやTik Tokであれば、個別にJASRACへ利用許諾手続きを行なわずに、原曲に合わせたダンスを公開できる。

   YOASOBIは「歌ってみた」について、「ピアプロ」を活用している。ピアプロは、不特定多数との協業を可能とするコンテンツ投稿サイトで、自作の音楽、イラスト、テキスト、3Dモデルなどを投稿できる。さらに他のクリエイターが、それぞれの作者が定めたライセンス条件に基づきコンテンツを二次創作に活用・公開できる。

   ここに各楽曲のインスト(演奏だけの曲)を公開している。楽曲の改変は不可としながらも、キー変更や、Twitterに掲載するための楽曲尺調整は問題ないと呼びかけており、ファンは個別に許諾を求めずとも、気軽に「歌ってみた」を投稿できる。

   取材に対し水野さんは、YOASOBIの取り組みを「いわゆる『歌ってみた』『踊ってみた』コミュニティーを意識したものと言える」と述べる。リスナーがインスト楽曲に合わせて歌ったり、踊ったりすることを奨励しているという。

「このことがライセンスを付与しない場合と比較して、ヒットにどの程度貢献しているかの分析は難しいですが、アーティスト側が『歌ってみた』『踊ってみた』カルチャーを承認している意向は伝わりますし、ファンにとっても二次創作を適法に投稿できるということで、ファン投稿を加速させた面はあると考えています」

Ayase、米津玄師、Eveも「ピアプロ」ユーザー

   「ピアプロ」は、ボーカロイド「初音ミク」を発売したことなどで知られるクリプトン・フューチャー・メディア(札幌市)が運営している。当初は初音ミクなどボーカロイドに関連する作品を扱うサイトだった。

   ボーカロイドを用いて制作された楽曲の多くはミュージックビデオ付きで投稿される。ピアプロは、楽曲を作る人、演奏を担当する人、イラストを描く人などを繋ぐツールの1つとして、界隈の盛り上がりに貢献した。

   商業デビューするクリエイターも現れた。「YOASOBI」の作詞担当であるAyaseさんや、米津玄師さんやEveさんも、ボーカロイドで楽曲を制作する「ボカロP」として知られている。3人ともピアプロにも各楽曲を公開していた。

   しかしデビュー後の作品の著作権はJASRACなどの著作権等管理団体に管理を委託されていることが多く、作者本人であっても自作品を投稿できない状態だった。ピアプロには他のユーザーが作品を自由に利用できるという意思表示(ライセンス)を付与する機能があるため、投稿者は作品の完全な著作権を有している必要がある。

   この状況を打破するためクリプトンは21年10月、JASRACと括的利用許諾契約を結んだと発表した。同じく管理団体のNexToneとも協議したと明らかにしている。これにより、JASRACが著作権を管理している音楽作品についても、アーティストやユーザーが個別に許諾をとる手続きなしにピアプロに作品を投稿できるようになった。

「このようなJASRACやNexToneと包括契約がない場合、JASRACやNexToneに著作権の管理を委託しているクリエイターは自らが作曲したり、作詞したりした本人であっても、ピアプロに投稿できませんでした。しかし、そのようなクリエイターでも、二次創作カルチャーが大好きで、非営利目的での作品利用の場としては引き続きピアプロを利用したいという希望や、ファンとしてもそのようなクリエイターの音楽作品の二次創作をしたいという希望がありました。
ピアプロのJASRACやNexToneとの包括契約は、JASRACやNexToneが『インターネット上の音楽利用』に関する著作権を管理している音楽作品をピアプロに投稿できるようにするもので、クリエイターとユーザー双方の要請をみたすwin-winの仕組みを実現したものといえます」(水野さん)

ピアプロは「日本の二次創作カルチャーを下支えしている」

   初期のピアプロはクリプトンのバーチャルシンガーを中心としたコンテンツ投稿サイトだったが、投稿可能な他社キャラクターやファンが創作したキャラクターも増えた。水野さんは「現在では初音ミクだけでなく二次創作作品を広く扱うプラットフォームとして機能しており、日本の二次創作カルチャーを下支えしているように思います」と述べる。

   ピアプロの利用は、ファンやクリエイターにとってどのようなメリットがあるのか。水野さんはこう述べる。

「別にオープンなライセンスをわざわざつけなくても、良くも悪くもTikTokやYouTube等でファンは勝手に二次創作をしていってしまう現状もあります。
しかし、このようなコンテンツはあくまで放置されているだけで適法なコンテンツとは言い切れない面がどうしても残ってしまうものも多いです。中には行き過ぎた二次創作がなされたり、線引きが難しいフリーライド行為もあり、アーティスト側は営利目的での利用と非営利目的でのファン創作の健全な両立に心を砕いています。
そのようななかで、オープンなライセンスをつけて公開する、という一手間を加えることで、アーティスト側はNGなラインを示しつつ、ファン創作を積極的に許容していく姿勢を見せることができます」

   YOASOBIは新曲をリリースするたびにインストをピアプロに公開し、ファンはそれを用いて積極的に「歌ってみた」を公開する。YOASOBIが公式SNSでファンに対して感想を述べたりUGCを紹介したりすることもある。

   水野さんは「YOASOBI、特に楽曲を制作されているAyaseさんがピアプロ・ライセンスを付与してインスト楽曲を公開しているのは、自らの出自や原点であるボカロPとしての矜持を示すことや、YOASOBIなりの二次創作カルチャーに対する恩返しという意味合いが大きいのではないか」と推察する。

「YOASOBIやAyaseさんがライセンスという形でそのような意識を示し続けてくれていることはヒットを生み出すという観点からも興味深いことですが、それだけでなく、二次創作という文化をつないでいくという観点からも重要なことだと思います」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)

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