韓国と北朝鮮の軍事境界線上にある板門店で、在韓米軍の兵士が許可なく境界線を越え、北朝鮮側に拘束される事案が起きた。
韓国メディアによると、在韓米軍の兵士が脱走して北朝鮮に渡るのは曽我ひとみさんの夫、チャールズ・ジェンキンス氏=17年死去=以来58年ぶりで、米国人が北朝鮮に拘束されるのは5年ぶりだ。5年前と比べて米朝関係は悪化しており、米朝間の新たな火種になりそうだ。
2か月にわたって服役、米国に送り返される直前で...
事案は国連軍司令部が2023年7月18日にツイッターで発表した。内容は
「共同警備区域(JSA)のオリエンテーション・ツアーに参加していた米国人が無許可で軍事境界線を越え、朝鮮民主主義人民共和国に入った。彼は現在、朝鮮民主主義人民共和国に拘束されていると考えており、この事件を解決するために、朝鮮民主主義人民共和国の側と協力している」
というもの。単に「米国人」だとされていたが、米韓メディアの報道によると、在韓米軍の兵士だ。
AP通信によると、米兵はトラビス・キング2等兵(23)。暴行の罪で2か月にわたって韓国の刑務所で服役し、7月10日に出所。7月17日にテキサス州のフォート・ブリス基地に送り返され、軍の追加懲戒処分や除隊処分を受ける可能性があったという。キング氏は空港の税関まで案内されたが、飛行機には乗らず空港を脱出。翌日の板門店ツアーに参加して北朝鮮に渡った。
米国のオースティン国防長官は7月18日の記者会見で、
「視察に訪れていた私たちの軍人の一人が、故意に、無許可で、軍事境界線を越えた」
と説明。
「数日後、数時間後に進展があると思う」
と話した。
5年ぶりに米国人拘束、解放のハードルは当時より高い?
板門店では、17年に北朝鮮兵士が軍事境界線を越えて韓国に亡命した事例がある。一方で、朝鮮日報によると、米国人による「板門店越北」は初めてだ。在韓米軍所属の兵士が、南北を隔てる非武装地帯(DMZ)を超えて北朝鮮に渡るのは、1965年1月5日、夜間パトロール中に脱走したジェンキンス氏以来58年ぶりだ。
米国人が北朝鮮に拘束されるのは、中国経由で北朝鮮に不法入国したとして拘束されたブルース・バイロン・ローランス氏以来、約5年ぶり。ローランス氏は18年10月に中朝国境を渡って北朝鮮に不法入国したとして拘束され、同11月に「追放」されていた。
これに先立つ18年5月には、ポンペオ国務長官(当時)が訪朝し、拘束されていたキム・ドンチョル、キム・サンドク、キム・ハクソンの3氏を連れて帰国した。3人の解放は、18年6月に初めて行われることになる米朝首脳会談に向けて米朝関係が改善していたことが背景にあると考えられている。だが、19年2月に行われた2回目の首脳会談では非核化をめぐる交渉が決裂。21年には米政権がトランプ氏からバイデン氏に移行し、米朝関係は膠着状態が続いている。
ワシントン・ポストは、こういった経緯を
「北朝鮮と米国の関係がすでに不安定になっている最中の外交的緊急事態」
だと指摘している。
58年前に北朝鮮に渡ったジェンキンス氏は、国策映画に出演させられた経緯がある。5年前に比べて解放に向けた交渉が困難になるとみられる上、キング氏が対米・対南宣伝に登場する可能性もあり、米軍としては対応に苦慮することになりそうだ。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)
A U.S. National on a JSA orientation tour crossed, without authorization, the Military Demarcation Line into the Democratic People’s Republic of Korea (DPRK). We believe he is currently in DPRK custody and are working with our KPA counterparts to resolve this incident. pic.twitter.com/a6amvnJTuY
— United Nations Command 유엔군사령부/유엔사 (@UN_Command) July 18, 2023