カルディで発売された「凍らせて食べる すいかあいす」が「美味しすぎる」と人気を博している。塩をまぶしたスイカのような味わいや、お酒や炭酸水などと組み合わせるアレンジが話題となり、SNSやメディアで話題になった。
用いたスイカの産地は、2016年の熊本地震で大きな被害を受けた益城町(ましきまち)。商品開発に携わった川合万太郎さんは2023年6月28日、J-CASTニュースの取材に対し、「地震のイメージが強かった益城町の元気になった姿を伝えたい」と話す。
知らなかった熊本地震の「その後」
すいかあいすは、液体の状態で販売されており、常温で保管できる。食べる前にパウチごと凍らせることで、シャーベットのような食感になる。価格は税込149円。J-CASTニュースの姉妹サイト「東京バーゲンマニア」では、実食した記者が「なめらかで柔らかい」「スイカのいちばん甘く、味の濃い部分をずっと食べている感覚」などと感想を伝えている。
昨年6月から店頭に並び、早いところでは販売開始から2日以内に完売。ほとんどの店舗で1週間以内に売り切れたという。ツイッターでは「お酒に入れても美味しかった」「甘味は強いけど後味がすっきりしていて食べやすい」などと好評で、品薄になると「KALDI2軒探したけどない」「復活させて」などと熱望する声もある。
産官学が連携した「益城町特産品開発プロジェクト」で開発された。ともに生み出されたデザートの「すいかのくずきり」や麺つゆ「かけるミニトマト」なども好評だ。取材に対しプロジェクトの仕掛け人・川合さんは、21年3月に益城町と日本航空(JAL)の間で地域活性化などを目的とした連携協定が結ばれたことをきっかけに、JALから町役場に出向してきたと話す。
「私の出身は名古屋で、出向を機に初めて九州に赴任しました。益城町については、熊本地震で甚大な被害を受けた場所というイメージが強かったです。それ以降の報道は少なく、現在の様子は全く知りませんでした」
協定は益城町の創造的復興を図る。川合さんは家族を千葉に残し、単身で益城町に移り、何ができるか考え始めた。熊本県内全ての市町村に足を運び、道の駅や観光施設で、何を売りに町をPRしているのか見て回った。
「熊本の人々の温かくて元気な姿と、盛んな農業が印象的でした。そんな町のプラスイメージを発信していきたいと感じました」
川合さんは益城町の農産物の魅力を全国に発信したいと考え町の人々などに協力を求め、プロジェクトを立ち上げた。
益城町の大学生に学びの機会を
プロジェクトにはJALのほか、カルディコーヒーファームで販売される和食材商品の開発を手掛ける「もへじ」、原料を提供する上益城農業協同組合、そして東海大学熊本キャンパスが加わった。農産物を用いた商品アイデアを学生たちから募り、商品開発や商品流通に知見を持つもへじがアドバイスやアレンジを加えることで、全国に通用するヒット商品を生みだし町のイメージアップを図る。
川合さんは学生たちに対し、プロのマーケティングに触れることで今後の学びに生かしてほしいと期待する。
「益城町に関連性が深い学生たちに、プロジェクトメッセージを伝えるためにぜひとも協力してほしいと考え、益城町と益城町にキャンパスを設置する東海大学との協力活動の一環として、協力を求めに行きました。JALも商品PRや空港での販売で応援すると。熊本地震では東海大学阿蘇キャンパスも被害に遭いました。校舎は半壊し、その移転先が益城町でした(2023年4月に移転)。学生の皆さんの学びにもつながると思い、何回も足を運んで協力を得ることができました。今ではいい思い出です」
プロジェクトに参加した12人の学生は意欲的で、短い検討期間にもかかわらず30~40もの商品案が集まったという。素朴なものから尖ったアイデアまで様々で、もへじはプロの目線から様々な知見を授けた。
スイカゼリーを作りたいという案は、差別化を図るために和のテイストを取り入れた葛切りに。ミニトマトを用いた商品としては、夏野菜を用いた冷製スープ「ガスパチョ」にしたいという声があり、アレンジの幅を広げるべくトマトベースの麺つゆに仕上がった。カルボナーラ風など洋食の要素を取り入れた鍋の素やめんつゆが流行していたためだ。
「すいかあいすは、夏に出す商品なのでオーソドックスなすいかシャーベットを作りたいという学生のアイデアと、店舗で販売するには常温で販売し、家で凍らせるタイプの方がベターというもへじさんのアドバイスを融合させて、生み出されました」
学生はこのほかにも様々な場面に立ち会い、すいか加工の工場見学なども行っている。
「熊本に来て本当に良かった」
試作を繰り返し22年2月、いよいよ正式な商品化が決定。3月に行われた町長をはじめとする関係者向け試食会も好評だった。
「私も初めて試食した時、これはきっと全国の人々に受け入れてもらえると実感しました。はじめて益城町のスイカを食べたときの『甘くておいしいな』と感じた味が、そのまま表現されていました」
県内の各種報道機関にも取り上げられた。川合さんは「熊本の方々は流行りものが好きですのですぐに飛びついてもらえました」と冗談めかして話す。
大きな反響を受けて、すいかあいす、すいかのくずきり、かけるミニトマトは今年も再販された。すいかあいすは昨年3~4万本ほど販売したが、今年は既に20万本以上売れているという。
「今年も売れ行きが良く、来年は今年よりももっと多く販売したいとお話をいただいています。町の名前が入った商品を継続的に販売し夏の定番となれば、より印象的に町のことを伝えられると思います。パッケージの産地紹介に熊本県だけではなく『益城町』を表示していただいたのは、私の強いこだわりで、通常は都道府県までの表記で、もへじさんには相当無理を言いました(笑)」
県内でも好評で、益城町産業振興課の山田星夏さんは個人の所感だと前置きの上で次のように話す。
「町内の人々からも喜ぶ声があります。地震の時にお世話になった他県の方々に、自分たちの元気な姿をアピールできると意気込む生産者さんもいました。もともと地震で知られていた町が元気になったこと、どんな町でどんな産品があるのか、全国にお伝えすることができて嬉しく感じます」
プロジェクトを振り返って川合さんは「まさか自分がこういう事をするとは思わなかった」と話す。これまで商品開発を手掛けた経験はなく、名古屋・東京での仕事が長かったために地方で働くことも想定していなかった。成功したのは、多くの人々の協力のおかげだと深く感謝する。
「一から関係を作っていくところから始め、恐る恐る打診していたのが、今では何でもご相談させていただけるようになりました。プロジェクトの肝でもある産品の調達を手掛けてくださった農協の方々とは一緒にゴルフに行くくらいの仲になりました。 この取り組みが益城町にとって意義のあることになってほしいです。多くの方々から手厚いサポートを頂けたことが印象的で、熊本に来て本当に良かったです」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)