20歳の時に事故で右手と両足を失い、外出時に義足を使う山田千紘さん(31)は、電車に乗れば優先席に座ることも多い。その優先席で、忘れられない出来事がある。義足が見えなかったためか、別の乗客に「ここはあなたが座る席じゃない」と声をかけられたのだという。
その時、山田さんが抱いたのは「ありがとうございます」という気持ちだった。なぜ相手に感謝したのか。何を思ったのか。自身の体験と、優先席についての考えを山田さんが語った。
【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)
「違う席に移りなさい」
僕は障害等級が1種1級です。外出時は義足を履きます。駅まで歩くと、両足がある人よりもかなり疲労がたまり、足が凝ったり張ったりします。一度義足を外したくなるんです。
だから、電車は座れるものなら座りたいです。乗車したら優先席付近に行くことは多いですね。1~2駅なら立っていても大丈夫ですが、長時間乗るとか、義足を履き直したい時とかはやっぱり座りたい。座れたら実際に義足を外して凝りをほぐすこともあります。座れるとすごく楽です。
休みの日は半ズボンで外に出ることが多いので、義足であることは一目で分かると思います。だけど仕事の日はスーツで義足が隠れるので、一見したところではどうしても分かりづらいです。
その関連で、今でも忘れられない出来事があります。ある日、スーツ姿で地下鉄の優先席に座っていました。しばらくして、正面に座っていた中年女性から視線を感じ、それが2~3駅続きました。
女性が立ち上がって僕の目の前に来て、注意されました。「ここはあなたが座る席じゃない。違う席に移りなさい」。義足が服で隠れて見えなかったんだと思います。
僕はポケットに入れていた障害者手帳を見てもらい、「身体障害の1種1級なんです」と説明しました。女性からは、電車内に響き渡る大きな声で謝られました。
それで他の乗客から注目されて恥ずかしくもあったんですが、それよりも、優先席に座っていて気になった人に声をかけるという女性の行動が素晴らしいな、と僕は思いました。注意した相手がたまたま障害のある僕だったので謝られてしまいましたが、この女性のような人がいると、優先席が必要だけど立っている人が座れる機会が増えると思ったからです。
その女性が今後、同じような場面で発言しづらくなったら困るので、「あなたのように注意してくれる人のおかげで、本当に座るべき人が座れることもあります。声に出していただいてありがとうございます」とその時感謝を伝えました。