ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏=2019年に87歳で死去=による性加害問題をめぐり、報道でメディアの責任について言及する機会も増えてきた。
TBSが2023年6月17日放送の「報道特集」で「検証 2度の裁判とメディアの責任」と題して特集したのに続いて、朝日新聞が6月29日朝刊メディア面「メディアタイムズ」で取り上げた。朝日の特集では一連の経緯や識者談話に加えて、編集局長名の談話を「批判受け止め、報道を続けます」の見出しで載せた。朝日以外の新聞各紙も、社説で取り上げたり、特集記事で有識者のコメントを介してメディアのあり方に触れたりする機会はあったが、さらに踏み込んだ対応だと言えそうだ。
GE兼東京本社編集局長「とりわけ男性への性加害という問題に対する認識が不足」
喜多川氏による性加害問題は1999年~2000年にかけて週刊文春が報じ、喜多川氏とジャニーズ事務所が、計1億円余りの損害賠償を求めて東京地裁に提訴。一審の東京地裁判決では性加害の事実を認めず、文春側に計880万円の支払いを命じたが、二審の東京高裁判決では「その重要な部分について真実」と認定。賠償額を120万円に減額した。ジャニーズ側は上告したものの、最高裁は04年2月に上告を棄却。高裁判決が確定した。当時、新聞各紙は判決について報じていたもの、扱いは小さく、報道が十分ではないとの批判は根強い。
今回の朝日新聞の特集は「長年報じず 新聞・テレビに批判」の見出しで、新聞・テレビ各社に行ったアンケート結果や、識者の談話で構成。小見出しには
「判決記事、小さな扱い」
「BBC番組後に各社報道、『真摯に受け止め』」
「『暗黙の了解あると感じた』『男性中心の価値観に偏り』 識者の見方」
といった文言が並んだ。
「批判受け止め、報道を続けます」と題した、野村周・朝日新聞ゼネラルエディター兼東京本社編集局長名義の談話も載せた。談話では、一連の判決に関する記事は大きな扱いではなかったことに触れ、その後の報道姿勢について次のように言及した。
「今回、被害を訴える当事者の方たちが記者会見を開くまで積極的に報じてきませんでした。性加害、とりわけ男性への性加害という問題に対する認識が不足していたことなどが根底にあったと思います。ご批判は真摯に受け止めます」
喜多川氏が死去しており、反論ができない中で記事化することについて社内で議論があったとする一方で、それでも報じた理由を
「当事者の方たちが実名で会見を開いて被害を訴えた証言の重さなども踏まえ、社会にしっかりと問うべきものと判断しました」
と説明した。
朝日は社説で、これまで3回にわたって性加害問題を取り上げている。4月15日の「ジャニーズ『性被害』検証が必要だ」と題した回で、メディアのあり方について言及している。
「喜多川氏による性被害の証言は以前から出ていたが、一部の週刊誌などが中心だった。メディアの取材や報道が十分だったのか。こちらも自戒し、今後の教訓としなければならない」
5月27日には、田玉恵美論説委員がコラム「多事奏論」で「ジャニーズ性加害問題 新聞に欠けていたものは」と題して「なぜ見過ごしてきたのか」を論じた。
毎日社説「問題にきちんと向き合ってきたのか、メディアも反省を迫られる」
現時点で最も踏み込んで報じているのは朝日新聞とみられるが、毎日新聞も3回にわたってジャニーズ問題を社説で取り上げた。5月16日に「ジャニーズの性加害問題 社長は何も答えていない」と題して掲載した回では、
「多くの人気男性アイドルを抱えるジャニーズは芸能界で大きな影響力を持ってきた。問題にきちんと向き合ってきたのか、メディアも反省を迫られる」
とある。6月10日の1面コラム「余録」では
「人気タレントを抱えた芸能事務所はエンタメの世界では権威だ。小紙を含め掘り下げた報道をしてこなかったメディアの責任も否定できない。問われるのは同じような被害者を出さないために何ができるかだろう」
と論じた。それ以外にも、「ジャニーズ性加害問題 企業はどう向き合うべきか 有識者に聞く」(6月26日)と題した特集の有識者コメントや、中森明夫氏や青木理氏が連載でメディアのあり方に触れた。
読売新聞は
「男性の性被害 声上げづらく 理解してくれない周囲 『訴えは恥ずかしい』意識」(6月8日)
「性被害防止対策 強化へ ジャニーズ問題巡り 関係府省初会議」(6月14日)
といった動向を伝える記事は載せているが、社説では取り上げておらず、夕刊コラム「よみうり寸評」(5月16日)に
「ジャニー氏の所属タレントへの性加害疑惑は以前から一部で報じられていた。注視していなかった自らを叱りつつ、夢の代償を卑劣に求められた少年らの痛苦を思う」
とある程度だ。
日経新聞は5月18日の社説「芸能界の性被害防ぐ対策を」で、
「大手事務所とメディアの関係についても、自省を含め改めて考える契機にしたい」
と触れ、産経新聞は5月17日の社説にあたる「主張」欄で、次のように論じている。
「近年は、映画・演劇界でのセクハラやスポーツ界のパワハラなどで深刻な告発が相次いでいる。芸能界やスポーツ界といった、ある種の閉鎖社会における旧態依然を許容してきた悪弊は、もはや通用しないと知るべきだ。もちろんそれは、メディアにとっても同様である」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)