岸田文雄首相は、保険証廃止・マイナンバーカード一本化の方針は変えないが、国民の不安解消が大前提とし、現行の保険証は1年の猶予期間中は使えるとして、その間に不安解消を図るとした。
保険証廃止・マイナカード一本化により保険証とカードを一体化した「マイナ保険証」となるが、別人の医療情報が登録された事例が7000件以上あった。共同通信社が6月17、18両日に実施した全国電話世論調査によると、一本化の延期や撤回を求める声が計72.1%だった。
一時的なミスと永続的なデメリットの両方をよく比較考慮する
前回の本コラムで、事例数だけでなく、比率を合わせて見るべきと書いた。7000件は0.0056%だ。これは、約1.8万人に1人なので、年末宝くじ4等5万円の当選確率1万人に1人より低くその半分程度、交通死亡事故やゴルフホールインワン確率3.4万分の1より高くその2倍程度だ。
筆者は確率で割り切るので、自分が1.8万人から選ばれるとは思わないが、不安かと聞かれたら不安と答える人が多い。上記の世論調査でも、マイナカードの活用拡大に「不安」「ある程度不安」との回答は計71.6%あった。
これは人間心理なので避けられないが、報道ではあまり煽らない方がいい。新しい制度に移行するとき一時的なミスはあるが移行しないときは永続的なデメリットもある。一時的なミスと永続的なデメリットの両方をよく比較考慮するのも不安解消にはいい。
今の健康保険証に安住するのは大きなデメリット
筆者はかつて20年ほど前の官僚時代にe-Taxのシステム作りに参画した。これは国民からカネを取る仕組みであるが、それを一部改良すれば国民にカネを配布することが可能だった。カネを取るのはいち早く作り、カネを配布するのは20年も時間を要した。これは新しいシステムに移行しないデメリットだ。
現行の保険証は顔写真もないなど、本人確認ができない。他人のなりすましや不正利用などが問題化している。性善説を前提として健康保険証を本人確認の一部としている今の社会システムはマイナ保険証に移行しないとかなりまずいことになるだろう。今の健康保険証に安住するのは大きなデメリットになっている。実際、日本のいくつかの自治体では健康保険証の不正利用に悩んでいる。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。