ファクトチェック記事を表彰する国内初の取り組み「ファクトチェックアワード2023」が行われ、2023年6月21日にオンラインで授賞式が開かれた。
表彰されたのは「大賞」1作品と「優秀賞」5作品。ファクトチェック記事では、ネット上で拡散されている情報や著名人の発言を検証し、事実関係の誤りを指摘することが多い。ただ、今回大賞を受賞した記事では新聞記事を検証して「正確」だと判定している。仮に元の記事が「正確」であっても、記事を発端に波紋が広がれば「その『誤解を解く』ことの意義は大きい」という点が評価された。
「元の記事が『正確』であっても『誤解』は生じうる」
ファクトチェックを支援する国内団体「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)が主催。22年1月1日から23年3月31日にかけて公開された記事が対象で、39点の応募があった。(1)検証対象の社会的重要性・公共性(2)コンテンツの質・公正性(3)独創性(4)社会的インパクトの4つを基準に、松田美佐・中央大学教授ら5人の選考委員が審査した。
大賞はファクトチェック専門メディア「リトマス」による「『高度医療費負担廃止検討』のニュースをめぐる他制度との混同のおそれについて注意を喚起した記事」(22年10月配信)。毎日新聞が「高額医療費負担、財務省『廃止を』 省庁の無駄、予算執行調査」の見出しで配信した記事を検証する内容で、記事は「正確」だと判定された。
毎日新聞が記事で取り上げた「高額医療費」と、別制度の「高額療養費」が混同されて波紋が広がったことがファクトチェックのきっかけで、「授賞理由」では
「人々の社会生活に関わる公共性の高いテーマであり、元の記事が『正確』であっても『誤解』は生じうることを考えると、その『誤解を解く』ことの意義は大きい。ファクトチェック可能な事実とその対象とならない個々人の意見・態度の表明とを区別したうえで、『正しく理解』した批判も取り上げる点でバランスも取れている」
と説明している。
リトマスは22年1月に「情報検証JP」の名前で活動を始め、同6月に現在の名前で法人化(一般社団法人)している。大谷友也編集長は授賞式で、リトマスは大手メディアの経歴を持たないメンバーで構成(法人サイトによれば計6人)されていることを紹介しながら
「このような受賞は非常に大きな自信となっている」
と話した。
調査報道とファクトチェックが専門の「インファクト」(InFact)は、優秀賞5作品のうち次の2作品を受賞した。
「『英国女王の国葬でも議会の議決をとっている』との政治家の発言を検証した記事」(22年9月配信)
「ワクチン接種時の心筋炎・心膜炎の頻度に関する厚労省のリーフレットを検証した記事」(22年3月配信)
だ。
「バズフィードが長年取り組んできたファクトチェックの灯を消さずに...」
表彰された6作品のうち3作品が、ファクトチェックを専門分野として掲げる団体による受賞だ。22年10月に立ち上がった日本ファクトチェックセンター(JFC)からの入賞はなく、次回表彰に向けた動向が注目される。
残る優秀賞3作品は次のとおり。
「『ブチャの市民虐殺はフェイク』とのロシア側主張を覆す決定的証拠や証言に関する一連の報道」 (TBS、22年4月・8月放送)
「人気イベント開催地近くのホテルの価格高騰に関するネット上の噂を検証したファクトチェック特別番組」(日本テレビ、22年11月放送)
「『ドローンで撮影した静岡県の水害』として拡散した画像がAI生成と指摘した記事」 (バズフィードジャパン、22年9月配信)
バズフィードジャパンをめぐっては、23年5月にニュース部門がハフポスト日本版に統合され、芸能ニュースやライフスタイル、買い物情報など「エンターテインメントのメディア」に路線変更している。受賞作を執筆した相本啓太記者はバズフィードからハフポストに移籍しており、
「これからもバズフィードが長年取り組んできたファクトチェックの灯(ともしび)を消さずに...、新たにハフポストでもファクトチェックをやりたいという仲間も出てきましたので、しっかり取り組んでいきたい」
と話した。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)