女性にAED(自動体外式除細動器)を使用することに抵抗を感じる――。こうした問題がしばしば注目を集める中、AED使用時に傷病者のプライバシーを守る「AED救命テント」がSNSで話題になった。
救命テントを販売する日本光電(東京都新宿区)によれば、2022年は過去最高の販売数だった。新型コロナウイルスが5類感染症に移行する見通しがある中、人々の外出の増加が予想されたり、傷病者へのプライバシーの配慮が意識されたりしたからではないかと推測している。
男性の約3割が「できれば女性には使いたくないと感じる」と回答
発端は、2023年6月11日のツイッター投稿だ。施設に設置されたAED収納ケースの傍に置かれた救命テントの写真を紹介し、救命テントのメリットについて説明した。
この投稿は2万4000件以上のリツイートや6万9000件以上の「いいね」を集めるなど話題になった。救命テントを知らないユーザーが多かったとみられる。
AED救命テントは傷病者のプライバシーを守るものだ。AEDをめぐっては、以前から「女性に使うことに心理的抵抗感がある」といった問題がしばしば注目を集めている。
マーケティング会社のドゥ・ハウス(東京都千代田区)が発表した「目の前で知らない女性が倒れているとき、AEDを使用することに抵抗を感じますか?」というデータによれば、全国の男性544人のうち約3割が「できれば女性には使いたくないと感じる」とし、約1割が「女性であればAEDは使わない」と回答したという。この調査は22年8月8日~16日の期間にインターネットで行われ、22年9月1日に発表された。
2008年にAED救命テントを国内で初めて販売したという日本光電は、J-CASTニュースの取材に「AED使用時に傷病者のプライバシーを守りたい、また救助者が自信を持って救助を行える環境を築きたいという発想から開発にいたりました」と開発理由を明かした。
救命テントのメリットは一体なにか。同社は(1)AED使用時の傷病者のプライバシーを守る(2)救助者の周囲の影響に作用されずに、自信をもってAEDを使用したり、学習した救命手順を落ち着いて実施できるようサポートする(3)「AED」と「救命中」のロゴで遠くからでも救命中であることが分かる――の3点を挙げた。
一方、デメリットもある。(1)テントを広げることで場所を取る(2)限られたスペースの中での救助が必要になる――の2点があるという。「救助をする際は、心肺蘇生とAEDの使用を最優先としてください」と同社は述べ、救命テントがない場合は人垣を作るなどの対応で「傷病者のプライバシーを守っていただくよう配慮をお願い致します」と呼びかけた。
累計3000セット販売
日本光電によれば、23年6月までに約3000セット販売した。「毎年一定数販売されており、急激に伸びたという印象は特にありませんが、昨年は過去最高の販売数がありました」という。
デパートなどの商業施設を中心に導入が進んでおり、学校などでも導入されている。同社は「今後、更に救命テントの普及を推進することで、メーカーとしてAEDを販売するだけでなく、傷病者のプライバシーを守る、また救助者が自信を持って救助を行える環境をつくるという課題に対しても真摯に対応していきたい」と述べている。
今後の販売予測については、AED使用時の傷病者に対するプライバシーの配慮について意識され始めていると感じるとしつつも、「急激に伸びるというよりも、現状のように一定数販売されるのではないか」としている。