ダイヤモンド・ビッグ社(東京都渋谷区)の倒産報道を受け、発行していた旅行ガイドブック『地球の歩き方』の存亡を懸念する声が広がっている。
しかし、コロナ禍による苦境を背景に、21年1月に学研グループに事業譲渡されていた。現在ももちろん健在で、編集部はSNSで「学研にスタッフ一同移り旅を支えるべく地球を歩き続けています」と近況を報告した。
一時は売り上げが95%減と怒涛の日々を過ごし、晴れて「コロナ後」を迎えたいま、経営状況にどんな変化があったか。ブランド価値を見直したという発行元に聞いた。
「なくならないどころかさらにパワーアップしています」
「一部ネットニュースにより、『地球の歩き方』がなくなるという大きな誤解を招いておりますが、(中略)現在も国内外のガイドブックを出し続けています。これからも私たちは地球を歩き続けます!引き続き応援よろしくお願いします」
地球の歩き方編集部は23年5月31日、"倒産報道"を受けてツイッターなどで声明を出した。前日には、かつて同書を刊行していたダイヤモンド・ビッグ社が特別清算開始命令を受けたと報じられていた。
1979年創刊。旅行の必需品としての地位を築いたが、コロナ禍で部数減が止まらず21年1月に学研グループに事業譲渡されていた。
ツイッターでは読者から「びっくりした~大事な本です」「無くならなくてよかった」と安堵が広がり、「なくならないどころかさらにパワーアップしています」(丸善ジュンク堂書店)、「当店1Fにて本日も絶賛発売中です」(書泉ブックタワー秋葉原店)と好調ぶりをうかがわせる反応もあった。
ジョジョ&ムーが大ヒット
地球の歩き方の出版編集室担当者は31日、J-CASTニュースの取材に、コロナ禍の苦しい懐事情を振り返った。
コロナ前の同じ月と比べ、『地球の歩き方』海外版の売り上げは20年4月が90.0%減、21年4月は94.4%減、22年4月は88.9%減と壊滅的だった。
商品の質を支える海外取材もできないという二重苦に苛まれるも、ガイドブックの可能性を拡大解釈するアイデアで乗り切りを図った。
これまでとは毛色の異なる『旅の図鑑シリーズ』『世界の指導者図鑑』『世界の魅力的な奇岩と巨石139選』『世界のグルメ図鑑』といったガイド本を矢継ぎ早に投入し、話題を集めた。
ネット通販「楽天ブックス」が発表した2022年の売上ランキング(旅行・留学・アウトドア部門)では、『地球の歩き方 JOJO ジョジョの奇妙な冒険』『地球の歩き方ムー』『地球の歩き方 J00 日本2023~24』がトップ3を独占した。
23年4月の『地球の歩き方』海外版の売り上げは、コロナ前の水準には戻っていないものの56.1%減と健闘している。
売れ筋ランキング&刊行予定は
担当者は現在の状況について「アフターコロナへの転換で、海外ガイドブックの需要が確実に回復しております」と説明する。海外取材もできるようになり、改訂を急ピッチで進めている。23年3~4月だけで10冊の最新版を発行している。
旅行ニーズが旺盛の現在の売れ筋を聞くと、海外は順に「ソウル」「韓国」「ハワイ」「ロンドン」「パリ&近郊の町」「バンコク」「ベトナム」「シンガポール」、国内は「日本」「埼玉」「北海道」「沖縄」「京都」だった。23年2月に発売した「地球の歩き方 埼玉」は、63市町村すべての主な見どころを網羅し、Amazonの国内旅行ガイド部門ランキングで一時1位に入った。
「現実的に行きやすい近場のソウル、コロナ前からリピーターの多かったハワイ、久しぶりの旅再開にぴったりの東南アジア、戴冠式などで注目が集まったロンドン、ラグビーW杯やオリンピック開催で注目の集まるパリなど、コロナ前から人気のあり、直行便や便数の復活が早いエリアのガイドブックが再び売れている傾向です」
これからについては「コロナ前の本業(海外ガイドブックの制作)に取り組みつつ、コロナ禍で改めて自身のブランド価値を見直したことで生まれた図鑑シリーズやコラボシリーズにも、今後も積極的にチャレンジしていく所存です」と決意表明する。コロナ禍でヒットした『地球の歩き方ムー』の日本版と、コロナ禍で増強を決めた『地球の歩き方』の国内版シリーズ (『札幌・小樽』『愛知』『世田谷区』『神奈川』)を制作中だとした。