「家の鍵が『サービス終了』って状況に理解がついていかない」――。スマートフォンで鍵の開閉を行うスマートロック製品「Qrio(キュリオ)Smart Lock(Q-SL1)」のサービス終了が、SNSで波紋を広げている。
「買い切り型商品のためサービスの維持が難しくなってきております」
スマートロック「Q-SL1」は、2015年8月にソニーグループ子会社のQrio(東京都渋谷区)から発売された。
玄関ドアにデバイスを取り付け、スマートフォンに対応するアプリをインストールして利用する。スマートフォンと連動して鍵の開閉を行うことができる。アプリを通じて、外から自宅のカギの状態を確認したり、家族や友人に合鍵を共有したりすることも可能だ。18年には後継機種「Q-SL2」が登場している。
Qrioは公式サイトで23年5月8日、10月末にQ-SL1のサービスを終了すると発表した。
「2015年の発売開始以降、多くのユーザー様にご愛顧いただいておりましたが、最終出荷より5年が経過し、買い切り型商品のためサービスの維持が難しくなってきております。 つきましては、誠に勝手ながら、旧製品である『Qrio Smart Lock(Q-SL1)』のサービスを終了させていただくことになりました」
SNSでは「家の鍵ってサービス終了するんだ...」などと話題になり、一部ではサービス終了後に「カギの開け閉めが出来なくなるのか?」と不安を訴える声もあった。
J-CASTニュースは10日、同社に取材を申し込んだが、その日のうちにQrio公式サイトに追記があった。
追記によれば、アプリとの接続による解施錠など、サーバーとの通信を必要としない機能が即座に動作しなくなることはないものの、「セキュリティに関わる重要な機能の担保ができないため、ご利用の継続は控えて頂きたく、お願い申し上げます」としている。
また、今回サービスを終了するのは初代の「Q-SL1」のみで、後継機「Q-SL2」については、「お客様に安心してご利用いただけるようサービスの提供に努めて参ります」と記している。
「直近の市場環境やビジネス状況などを総合的に勘案」
Qrioからは16日に回答があった。旧製品は最終出荷から3年経過した2021年にソフトウェア更新の提供を終了すると案内していたなどと説明した。後継機Q-SL2も将来的にサービスを終了する可能性があるのかという点も質問したが、回答がなかった。
SNSでは、買い切りではなくサブスクリプションモデルのサービスであれば継続できたのではないかといった声も上がっているが、取材に対し、家電ライターの藤山哲人さんはこう述べる。
「Qrioはサーバーメンテナンス費用を自社で賄って、本体をできるだけたくさん売りたかったのではないかと推測しております。しかし現在は5000円ほどで買える新商品が次々と登場しています。厳しい市場環境の中、先にメンテナンス代をチャージできる価格に設定し直したように感じられます」
後継機のQ-SL2は、公式の通販サイトでは税込2万5300円で販売されている。一方、18年に出荷を終了したQ-SL1は、今回のサービス終了が発表された後も、Amazonなどの通販で1万円台で売られている。
サービス終了に関するQrioの発表では、Q-SL1の利用者に向けて、後継機Q-SL2のセール販売を案内する旨も告知していた。
「多くの利用者は一定のサイクルで買い替えを行っているのでは」
自身もスマートロックを愛用する藤山さんは、機器の特性について、こうも指摘する。
「そのうちデバイス自体も壊れていくと思います。鍵によって穴の位置や回す方向、角度が異なり、Q-SL1は金属と接触した状態でそれらを検知しています。鍵の開け閉めが激しい家や公共の場所で何百人も使うドアに設置されていた場合、もう壊れるかもしれない。冷蔵庫やエアコンなど普通の家電と同じくらいの寿命です」
そのうえで、「多くの利用者は一定のサイクルで買い替えを行っているのではないか」と推測する。
その背景に挙げたのが、スマートロックの進化と競争の激しさだ。
「CANDY HOUSE社は先月、『SESAME(セサミ)5』を発表しました。厚みが薄くなり、より多くの鍵に対応できるようになりました。安価で4378円から購入できます。完全非接触の角度センサーも導入し、耐久性も上がりました。ICカードのようにスマホをかざすことで開閉できる『NFCタグ機能』の導入も早かった」
また、スマートロックにとどまらないサービスを展開する企業もある。
「スイッチボット社は、スマートホーム化を実現する様々な製品を展開しており、その1つにスマートロックを据えています。人感センサーや温度計、声で操作できる他デバイスと組み合わせて、暮らしに合わせたオートメーションが可能です」
藤山さんは、先述したように、他の家電と同様に買い替えは必要だとしつつも、マンションなど業務用に導入される例もあるとして、今後さらにスマートロックは広がっていくのではないか、との見方を示した。