経済産業省は2023年5月19日、世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を広島市の五日市港で報道公開した。
液化天然ガス(LNG)と同様に気体を冷却して液体にして体積を小さくし、効率的に運ぶ仕組みだ。天然ガスはマイナス162度で体積が約600分の1になるのに対して、水素はマイナス253度まで冷やして800分の1になる性質で、LNGよりも液化水素の方が技術的ハードルが高い。運搬船の公開は同市で開かれていた主要7カ国首脳会議(G7サミット)を取材するメディアが主な対象で、広島で各国メディアに技術をアピールしたい考えだ。
マイナス253度を維持してオーストラリアから神戸に持ち帰る
運搬船は川崎重工業が建造し、全長116メートル・幅19メートル。船体中央に液化水素1250立方メートルを積むことができるタンクを備えた。配管やタンクの外壁を二重にして間を真空にすることで、マイナス253度を維持しながら長期間の航海ができるようにした。21年12月から22年2月にかけて行われた実証実験では、水素をオーストラリアで受け取り、約1か月かけて約9000キロ離れた神戸の貯蔵施設に持ち帰った。水素は「褐炭」と呼ばれる安価な石炭の一種から製造するが、そのプロセスで二酸化炭素(CO2)は分離・回収可能だ。
23年4月に札幌市で開かれたG7気候・エネルギー・環境相会合では、西村康稔経済産業相ら各国の閣僚も運搬船を視察。会合後の共同声明では次の一節が盛り込まれるなど、関心は高い。
「液化水素および液体有機水素キャリアを含む様々な方法で、ルールに基づき透明性のあるグローバルサプライチェーンを開発すること、供給国と消費国の間の有機的な協力を促進してコストを削減することへの努力を強化していく。我々は、水素利用の促進及び排出削減を加速するために、関連規制、安全コード及び基準を普及し、水素の安全利用を促すための環境を構築していく」