右手と両足を事故で失い、両足に義足を履いて生活している山田千紘さん(31)は、アイスランドを訪れた時、義足をめぐって「奇跡か」と思った出来事があった。飲食店で2人の義足ユーザーとバッタリ出会ったという。「日本でこういう体験をしたことはなかった」といい大興奮。驚きの出会い、さらに周囲の雰囲気の中で感じたこととは。山田さんが語った。
【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)
2人で話していたら、さらにもう1人
先日、アイスランドを訪れる機会があって、夜にバーへ行きました。飲んでいたら若い男性が突然こちらへ歩いてきて、「いい義足履いてるね! ナイス!」と明るく話しかけてきました。
見ると、その人も義足でした。しかも競技用の板バネがついた義足を普段用に履いていました。日本で板バネをつけて街を歩く人は見たことがなくて「これプライベートで履いている人見ないよ!」と僕も思わず反応しました。
彼は20歳で、先天的に右足の膝上までがないということでした。板バネを使っているけどアスリートではありません。一般的な義足も持っているけど、「靴の脱ぎ履きが面倒くさくて、板バネの方が楽なんだよ」と言っていました。ズボンも履きやすく、靴も履かなくていいから手間が減るそうです。
衝撃を受けて、「どこのメーカーの義足を使っているの?」といったことを話していたら、会話が聞こえていたのか分かりませんが、また別の男性が僕らの方に歩いてきました。目の前まで来たその人は、自分のズボンの裾をガッと上げて足を見せてきました。その人も義足を履いていたんです。40歳手前くらいで、警察官の仕事中の出来事で左足の膝下を切断したそうです。
義足ユーザーがたまたま3人、同じ場所にいて出会うなんてすごいですよね。奇跡かと思ったし、大興奮したのを覚えています。僕は両足とも義足で、さらに右手もありません。珍しいみたいで「アメイジング」と言われていた気がします。3人で話し込み、一緒に写真も撮りました。僕は英語ができないので、同行してもらっていた人に通訳を頼んでいましたが、英語を話せたらもっと盛り上がっただろうなと思います。
多くの人が義足や義手に見慣れているのかもしれません
日本でこういう体験をしたことはなくて、初めてのことでした。義足の友達がいるので集まって一緒に出かけることはありますが、1人で出かけて義足ユーザーにバッタリ出会い、打ち解けるということはなかったです。もしかしたら今までに、日本でも義足ユーザーとすれ違ったことはあったのかもしれないけど、義足を使っていることを積極的に見せる人はそんなに多くない印象があります。
僕も含めて、今回のアイスランドでの3人は義足を見せることに抵抗がなく、むしろオープンにしていました。義足の3人が並んで話していたわけですが、周りから視線を感じることもなかった。この店に限らず、現地で出会った他の義足ユーザーも義足が見える状態にしている人が多かったです。空港などでも、僕が義足で歩いていて目立っていると感じることもなかったです。
アイスランドは世界的な義足メーカー・オズールの本社があって、多くの人が義足や義手に見慣れているのかもしれません。当事者はオープンにしている人が多いし、周囲は受け入れる態勢ができているように感じました。だから同じ空間で義足の人が複数人いても、違和感なく一緒にいられるんじゃないかと思います。日本で普段生活している時とは違う感覚でした。
この2人とはまた別の人ですが、バーで立って飲んでいたら、座って飲んでいたお客さんが話しかけてくれて「この椅子、使いますか?」と言ってくれました。僕は立っていたい気分だったので、感謝を伝えつつ立ったままでいたのですが、向こうから心のバリアを取り払ってくれたようで嬉しかったです。もちろん日本にもそういう方はたくさんいらっしゃると思うけど、日本よりも声をかけてくれる人は多いのかなと思いました。
良い意味で「いろんな人がいて当たり前」という感覚が広まっているのだと思いました。そうすると、自分と違う体の人がいても驚いたり指を差したりすることもなく、共存しやすくなる。逆に、義足に見慣れていないと一歩引いてしまうかもしれない。知ってもらうことは大切だと思います。
僕は当事者として義足でどんな暮らしをしているか伝えていきたいと、改めて思います。義足を見慣れていなくて接し方が分からない人も、たとえば電車やバスなどで見かけて気になったら声をかけてみるとか、ワンアクションあってもいい。そのアクションがあるかないかで、お互いの理解の進み方が全然違ってくるんじゃないかと思っています。
(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)